パナソニックの社内ビジコン「未来のカデン」6つのアイデアが選出--社会課題に対峙し、商品化を目指す

 パナソニックが新規事業創出を目的として、2016年に設立した新規事業創出プラットフォーム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」が、6期目となる2021年度のビジネスコンテストファイナリストとして、6つのテーマを選出した。

 いずれも社会課題に対峙した、SDGsやD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)視点の事業アイデア。今後は、「未来のカデン」として商品化を目指すという。そこで、ファイナリストに選ばれた6つの事業内容を各担当者に聞いた。

顧客が抱える“深い課題”を「自分ごと」として熱量高く解決する

 Game Changer Catapultは、パナソニックの新規事業創出と、それをリードする人材の育成を目的に、社員自らが主体となって「未来のカデン」(ハードウェア・コンテンツ・サービスを含めた価値提供)づくりに挑戦している。

 背景には、「ビジネスの前提が大きく変化した」という課題認識がある。消費者の社会課題への関心は年々高まり、行動も大きく変容してきた。さらに、パーソナライズ化、DX化、産業アーキテクチャも変わろうとしており、流通プロセスも開発段階から顧客とコミュニケーションを取るなど方向へと変化した。

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 そのため、従来のような商品軸ではなく、住空間や家事、育児や教育、メディアやエンターテインメント、食、健康、美容、スポーツなど、事業領域軸での活動を推進。また、データの活用による個別最適化、エンゲージメントの向上、共感の醸成や社会課題の解決を目指すことで、最終的には社会全体のウェルビーイング向上を図るという。

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 そこで、高い課題意識と熱量をもつ社員から、事業アイデアを募るビジネスコンテストを実施。その中から可能性のある事業アイデアを採択し、社外と協働した実証実験や、事業化支援をしている。

 こうした取り組みのなかで生まれた「未来のカデン」の種は、累計220テーマ。やわらかな食材を調理する「デリソフター」など、実際の事業化にもつなげてきた。

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 そして今期は、6つのテーマが選ばれた。Game Changer Catapult事務局の向奥裕基氏は、「顧客が抱える“深い課題”を解決する事業であるか、プロジェクトオーナー自身がその事業アイデアに対して高い熱量を持っているかという“想い”の強さを重視している。それまでの行動量や、解像度高く課題を捉えているかも重要なポイントだった」と、審査を振り返る。

社員のリアルな原体験が“新商品”を生む

 選ばれた6つのアイデアについて、各チームのリーダーに話を聞くと、「自分自身が悩んでいた」「家族が課題に直面していた」と、原体験が非常にリアルだ。

 1つめは、聴覚障がい者向けの外出支援デバイス/サービスの「コデカケ」。チームメンバーの中にも聴覚障がい者が1人いるという。「普段、接しているなかで、困った顔をしていることが多いな」という気づきが、事業アイデアのきっかけになった。聴覚障がい者に話を聞くと、「身の危険につながる屋外での困りごとが深刻だ」と、課題が鮮明になったという。

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 そこで、顧客ターゲットを「外出意欲のある聴覚障がい者の方」と設定して、2つの課題の解決を目指している。1つは、外出時に後方からの接近物に気がつけないこと。もう1つは、知らない道への不安や、目的地での筆談対応可否など、必要情報の入手の難しさから、外出意欲を損なってしまうことだ。

 コデカケはその解決策として、移動中の後方察知のデバイスや、ルート提案と案内サービスの開発を目指す。聴覚障がい者の目視を奪わない、手首デバイスを開発予定だという。レーダーを用いた検知アルゴリズム、振動ハプティクス技術による通知の振動の鳴り分けなど、パナソニックが保有する技術を活用したいとしている。

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 2つめは、発達に特性がある子どもの強みを見つけ伸ばす教育サービス「Ipsum(イプソマ)」。もともとのきっかけは、チームリーダーの山崎の弟が、ダウン症という重度の知的障がいを持っていたことだ。

 発達に特性がある子どもは、全児童の約6.5%いるといわれている。授業中に立ち歩く、空気が読みにくいといった行動特性があり、定型発達の子どもと比べて、できないこともあるが、逆に秀でていることもある。周囲の理解がないために、否定的な目で見られ、自己肯定感が下がってしまうことが本人の課題で、そうした子どもを育てる親は、「この子は将来、本当に自立できるのだろうか」と強いペインを抱いているという。

 インタビューから伺えた親の価値観は、「発達障がいによる特性を個性をとして捉え、得意や好きを生かして、将来は本人が望む形であればなんでもいいから、働いて自立してほしい」という願いだ。

 解決策として、Ipsumは親の悩みに寄り添い、子どもの強みを伸ばすことを目指す。未就学から10歳程度の子どもをメイン対象として、4つの機能を提供する予定だ。専門家とともに開発する尺度で子どもの強みを見つけ、おもちゃやワークショップを通じて強みを伸ばす。子どもが遊ぶ様子をセンシングして分析し、悩んだら専門家に相談するという仕組み。

 できないことを補うだけではなく、“ゼロをプラスに変えていく”ポジティブかつ継続的なサービスを提供することが、DEIのキーポイントなのではという強いメッセージが込められている。

 3つめは、自宅の浴室で蒸気浴を可能にする置き型カデン「FLOWUS(フローアス)」。ターゲットは「メンタル不調で休職し、復職した30歳前後の働く女性」と明確だ。というのも、リーダーの大庭氏がその経験者。「もう誰ひとり、同じ思いをさせたくない。置き去りにしたくない」という強い想いが、共感するメンバーを呼び寄せ、事業アイデアに至った。

 課題はこうだ。30歳前後の働く女性は、結婚、出産、昇格と、さまざまなプレッシャーを抱えている。その様な環境の中、ある日突然コップの水が溢れる様にメンタル不調に陥り、休職してしまうケースが少なくない。復帰後も、周囲には「私はもう大丈夫です」と気張る裏側で、「実際はもう年休もない、私はもう廃人かもしれない」と恐怖に苛まれている。そして、自分の悪いところばかり考えて、不眠になり、心の問題が体に影響するスパイラルを断ち切れなくなる。

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 そのような負のスパイラルを、日常生活のちょっとした習慣のなかで断ち切り、前向きなコンディションを整えていくのが、蒸気浴という新習慣を提案する、置き型カデンのFLOWUSだ。

 ミストなどの、パナソニック既存技術やプラットフォームを活用して、これから本格的な開発に挑む予定だが、顧客に最も提供したい価値とは、女性でも気軽に使えて、予約や往復する手間もなく、自宅でできる蒸気浴で、「1日の終わりに、自分のために何かしてあげられた」という自己肯定感につなげることだという。

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 4つめは、マインドフルな思考の醸成をサポートする「KagaMe(カガミー)」。「誰もが無用なストレスをなくして、前向きに生きられる社会を作りたい」という想いからはじまった。ターゲットは、日々の生活の中でストレスを抱える人と幅広いが、想定顧客へのヒアリングから捉えた課題の解像度は高い。

 「日々の出来事に、怒りという感情を付け加えてしまう」「優秀な友人と自分を比較して、劣っていると思うと不安で眠れない」などのリアルな声から、「マインドレスであるために、他者や過去と比較して評価を加えてしまい、そのストレスを解消することに注力して飲酒などの行動を取りがちで、結果的に理想の姿に近づけていない」と、課題を設定した。

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 そこで提案するのが、マインドレスな状態から、マインドフルネスへの移行をサポートするKagaMeだ。有効な手段として着目するのは「呼吸瞑想」。瞑想の状態を把握する、マインドフルネス度合いを測定する、瞑想中に音声誘導するなどのパナソニックの技術を使ったサービスを検討中だという。

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 5つめは、高齢者の自力歩行寿命を延ばすオンライン運動サービス「ツヅクンデス」。チームリーダーの薦田氏は、父親が祖母を介護する姿を目の当たりにするなかで、“要介護者の尊厳を傷つけない”ためには、高齢者の歩行寿命を延ばして、普通の生活をより永くできることが非常に重要であると気づいたという。

 122名にインタビューを実施すると、「筋力維持が必要」だという課題が明確になった。高齢者は、普通の暮らしの中で筋力が低下する。その結果、運動障害が発生するため、リハビリを行うのだが、元の生活に戻るとまた適切な筋力維持運動ができなくなるため、また筋力が低下してしまうのだ。

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 なかでも、既往歴、病歴がある前期高齢者は、運動継続が必要であるにもかかわらず、継続できないという深刻な悩みを抱えていた。場所がない、適切な運動指示がない、体の痛みなど「自分のことを理解してくれない」ために、運動から遠ざかっていく現状が浮き彫りになったという。

 ツヅクンデスは、その名の通り運動の継続をサポートする。オンラインで運動教室を提供し、既往歴、病歴に適した運動プログラムを立てて、パナソニックの技術による感情検知や姿勢検知を駆使したリアルタイムフィードバックによって共感したり、励ましたりすることで、継続的な運動を実現。自ら筋力を鍛えることで自力歩行寿命を延ばすことを目指すという。

 6つめは、夫婦2人での主体的な育児参画を支援するサービス「COYA(コーヤ)」。事業アイデアの原体験は、チームリーダーの石崎氏が直面した“両立”の悩みだ。第1子誕生後も、通勤と残業で帰宅が遅くなるために、妻が孤独な育児で苦しむなか、父親として育児参画がうまくできず、「仕事は必死で頑張っているつもりだったけど、妻からは父親として認めてもらえなくなり、家庭として満足できる暮らしではなくなった」という。

 調べてみると、母親の産後うつが社会で問題視されている反面、父親も約13%が産後うつに苦しんでいた。しかも、産後3カ月から半年の間に、急増する傾向があるという。仕事は減らない、家庭では求められる役割が増える、夫の“独りブラック企業化”は、妻の孤独感とともに大きな課題であり、「ふたりで育児をしたいのに、なぜうまくいかないのだろう」と、父母ともに悩んでいることが分かったという。

 課題の原因を紐解くと、はじめ父親は育児への参画意識も高く、育児内容も理解しており、育児への苦手意識など抱いていない。けれども、出産後数カ月の間、仕事中心の生活を送らざるを得ないなかで、「母親に任せておいても何とかなる」と育児参画意識が低下し、実際に育児参画が減ると「妻から父親として認められない」「何をしたらいいか分からない」状況になり、最終的には育児への苦手意識を持つに至る。こうした変化はうつと同じく、産後3〜6カ月で顕著になることが、検証を通じて明らかになったという。

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 COYAは、夫婦2人の主体的な育児参画を実現するアプリだ。まず、アプリ導入時に2人で育児の目指す姿を共有する。次に、育児の主な担い手に、育児内容や育児ストレスを入力してもらって可視化し、パートナーに共有する。また、他の家庭の育児データや統計データから、リスクを抽出し、アドバイスをする。アプリ内で、育児TODOが自動生成される機能もあるため、育児の流れを常に把握することができ、家にいる時間が短くても育児の分担や参画をしやすくなるという。

 現在は既存のアプリを転用する形で、プロトタイプを検証中。利用中の父母からは、「2人で育児をしているという納得感を得られるようになった」という感想が寄せられているという。

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 今回紹介した6つのアイデアは今後、実証実験などを通じて事業化を目指すという。また、テストユーザーを募る予定もあるという。

CNET Japanでは2月21日からオンラインカンファレンス「 CNET Japan Live 2022 〜社内外の『知の結集』で生み出すイノベーション〜 」を2週間(2月21〜3月4日)にわたり開催する。3月3日のパナソニックのセッションでは、今回紹介した6つのアイデアを各チームのメンバーから紹介してもらう予定だ。後半では質疑応答の時間も設けるほか、セミナー終了後には登壇者と1対1でより深くコミュニケーションできる「オンライン1on1交流会」も開催するので、興味のある方はぜひ応募してほしい。

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