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実践!ECマーケティングNo.1

D2Cを支援する会社が、自らソーシャルコマースを実践!得られた知見とは?

2022/04/01

企業のD2Cマーケティングを支援する会社が、自らブランドを立ち上げD2Cマーケティングを実践する。そんな興味深い取り組みについて紹介します。

お話しいただくのは、株式会社CARTA COMMUNICATIONS(以下、CCI)の加藤潤一氏。加藤氏はブランドプロデューサーとして、2021年にメンズスキンケアブランド「HAUT(オウ)」を立ち上げました。本稿では、この取り組みの中から特に「ソーシャルコマース」に焦点をあて、SNS上でどのようにブランドストーリーを構築したのか、さらにその検証から得られた顧客体験(CX)の重要性についてお伝えします。

株式会社 CARTA COMMUNICATIONS
1996年に株式会社サイバー・コミュニケーションズとして創業。主力のインターネット広告事業に加え、データマーケティング/コンサルティング、D2Cコンサルティングなど、デジタルソリューション全般に事業領域を拡大。EC領域では、「販促戦略策定」「店舗構築」「広告集客」など、部分最適になりやすいさまざまな課題に対して包括的な支援のワンストップサービス「Commerce Container(コマース コンテナ)」を提供している。

ソーシャルコマースのファーストステップは、「コンセプトの設計」から

2021年よりCCIは、メンズスキンケアD2Cブランドの「HAUT」をプロデュース、販売しています。当社が自らブランドを立ち上げD2Cマーケティングを実践したのは、EC領域支援のワンストップサービス「Commerce Container」を、よりクライアントと顧客目線に立ったサービスへと発展させることが目的でした。

「HAUT」は、男性の肌に合わせて開発された、化粧水、乳液、美容液の役割を1本にまとめたオールインワン型のスキンケア商品です。普段の生活の中で身近に置かれるアイテムに対して、ミニマルかつ印象的なタイポグラフィを使い、 アートブックのようにインテリアになじみ、より豊かな生活を感じられるようなデザインをコンセプトとしています。

HAUT
2021年度 グッドデザイン賞を受賞。

右肩上がりのEC市場においては、オンライン上で自社の商品やサービスへと誘導し、購買につなげる導線をいかに確保できるかが重要となっています。中でも、SNSなどのソーシャルメディア上で、生活者とブランドがコミュニケートし、商品認知から購買までをシームレスにつなげる「ソーシャルコマース」が積極的に活用されています。

「HAUT」は、Instagram上で話題になるようなインパクトのあるデザインやパッケージを採用するなど、ソーシャルコマースを意識してブランドを設計。そして、ECプラットフォーム「Shopify」で構築した自社ECサイトと、Amazonを中心としたモールでの販売をチャンネルの中心に据え、サービスを展開しました。

プロモーションでは、Instagramを主たるプラットフォームに置き、次のような施策を実行しました。

【アカウント運用】フォロワーとのエンゲージメントを深めることを意識
・商品のビジュアルを複数枚活用して見せる
・成分について詳細を1枚ずつ投稿
・使用シーンやインテリアとのイメージを投稿

HAUT

【広告出稿】さまざまな手法を掛け合わせた複数パターンで検証
・フィード、ストーリーズ、動画など複数のクリエイティブフォーマットを作成
・リンク誘導が目的なのか、ページのフォローが目的なのかに合わせて配信
・自社ECサイトとAmazonで複数の誘導先を設定

加えて、PR会社と連携して、Instagram上で影響力の強いインフルエンサーに商品を試してもらい、HAUTについての投稿を依頼。インフルエンサーは、「知名度」「投稿フォーマット」「フォロワー数」という軸で選定し、それぞれの投稿の効果を検証しました。

ソーシャル上でのコミュニケーションは、「文脈」から「共感」を生み出すことが重要

さまざまな施策の結果、ソーシャルコマースを意識した設計通り、Instagramからの流入が自社ECでの販売に直接ヒットしました。また、Instagramから波及しTwitterで拡散されて販売数が伸びるという事象も見られました。その大きな理由は、シンプルかつ大胆なビジュアルデザインを採用したことです。他の商品と差別化できたことに加えて、特にカメラマンやデザイナーなどクリエイティブ関連のユーザーからの投稿が想定より多く見られました。

また、打った施策への反応がリアルタイムにコメントやレビューで把握できることも、ソーシャルの利点です。投稿のコメントの中には商品に関する問い合わせも見られ、カスタマーサービスとしての機能を担っていることも発見でした。商談や各種ツールなどの営業もInstagramのDM(ダイレクトメール)で連絡がきたことも印象的で、今後の商品開発や販売促進に生かせるフローを体験できました。

一方で、いくつか課題も見つかりました。Instagram広告から自社ECサイトだけではなくAmazonへのリンク誘導も行いましたが、商品認知がない中でモールに誘導しても購買率が低く、なかなか販売数に結びつきませんでした。そこで、Amazonに関しては、認知がされるまではAmazon内の広告にプロモーションを切り替えました。

また、インフルエンサープロモーションについては「知名度」「投稿フォーマット」「フォロワー数」を基準にして選定しましたが、これらの条件を満たしているだけでは販売には結びつきづらいことが分かりました。テクスチャーなども分かるように商品を紹介したり、「コスメ」「デザイン」に精通している方に商品の魅力をていねいに伝えてもらうのが一番効果的であるという結果が出ました。

HAUT
反響があった、インフルエンサーの投稿。

「HAUT」が開発時からこだわってきたことは、ビジュアルデザイン、品質(成分、テクスチャーなど)を通じて、「生活をより豊かにする」こと。コスメやデザインに精通したインフルエンサーが、情報を求めているフォロワーに対して画像やテキストを使って、ていねいに伝えることで、商品に込められた想いや背景を含めて自分ごと化してもらうことができたと考えます。つまり、ソーシャルでのコミュニケーションにおいては「文脈」が大事であり、より生活に密着し、いかに共感を生むかが重要であることが分かりました。

販売に直結するインフルエンサー投稿

「HAUT」の販売個数のグラフを見てみると、インフルエンサーが取り上げてくれたタイミングで販売が大きく伸び、その後はベースがじわじわと上がっていることが分かります。前述の通り、デザイナーがデザインの良さを、「デザイン文脈」で投稿したり、コスメに詳しい方が成分や特徴をていねいに説明する「コスメ文脈」で投稿したタイミングで販売数に大きくヒット。さらに、その販売はしっかり世界観の伝えられる自社ECで増加していました。

HAUT

HAUT
ミニマルでシンプルかつ洗練されたデザインの世界観をECサイト上で表現。

また、施策を進めていく中で、オンラインだけで認知を広めるには限界があると感じていたところ、Instagram経由で雑誌社や店舗など各社から問い合わせをいただき、それをきっかけに雑誌掲載やポップアップストアの出店をスタート。

オフライン展開をはじめたところ、実際にオンラインの売り上げが伸びる波及効果もあり、オフラインでの施策の重要性を感じました。

雑誌の編集者や流通担当者がInstagramで情報収集しているということを考慮しておくことも、ソーシャルメディアでプロモーションをする上で重要です。

ソーシャルコマース成功の鍵は自社ECでの顧客体験の向上

今回の取り組みを通して、Instagramを起点にしたビジネスが加速していることを強く感じました。従来の検索エンジンからの流入ではなく、Instagram上で検索して、プロフィールリンクから自社ECにリンクして購買する、という導線が60%を占めていて、かなり増えていると実感します。

また自社ECサイトではモバイルからの購買数が80%になっており、モバイルでの顧客体験(CX)がますます重要になってきています。なお、HAUTのサイトはShopifyで構築しています。

Shopifyは、ECサイトが手軽にそして本格的に構築できるプラットフォームとして近年注目が集まっています。Shopifyを使う利点として、モバイルでも入力しやすいフォームであり、AmazonPayをはじめとしたID決済サービスとの連携が可能なため、フォーム入力の手間を省けるなど、カート以降のユーザーインターフェース(UI)のスムーズさがあげられます。ソーシャル上からスムーズに決済まで移行し、離脱を最小限にすることはソーシャルコマースを成功へ導くキーポイントとなります。加えて、配送に関してもWMS(倉庫管理システム)との連携により、最短で当日配送を実現していることも顧客体験の向上につながっていると考えます。

一味違った顧客体験価値として、HAUTの世界観を伝えられるよう、初回1000本限定で商品の中に説明用のブックレットを同梱(どうこん)したり、化粧箱に一つ一つ製造番号を手書きでナンバリングし、限定感、特別感を演出しました。その結果、購入者からのブックレットやナンバリングに関しての投稿がソーシャル上で多く見られ、「顧客体験価値」がソーシャルを通じて波及していくことを実感しました。

ソーシャルコマースにおいては、機能上の体験価値が重要なのに加えて、商品やサービスの購入によって得られる「自分だけの特別感」といった顧客体験価値がエッセンスとなります。このように、ソーシャルの活用はスキンケア以外の業種でも重要でコマースには欠かせないツールになっています。ソーシャルを中心としたプロモーションやサイトのUIや購買体験のCXまでトータルで戦略を設計することが今後のコマース戦略において重要です。

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