loading...

AI×クリエイティブで、商品開発の突破口を探せ!No.1

あのロングセラー商品の新味をAIがプロデュース!1兆回のシミュレーションから誕生した「おにぎりせんべい AIせんべい」

2022/07/08

データアーティスト

近年、ビジネスへのAI活用は急速に発展しており、これまで活用されていなかった領域にチャレンジする企業も増えています。

データアーティストと、三重県伊勢市の老舗製菓メーカー「マスヤ」との取り組みもその一つ。ロングセラー商品「おにぎりせんべい」の新味の味覚設計にAIを活用し、「やみつきになる究極の味」をコンセプトに食材の最適な組み合わせをAIが算出。新たに誕生した「おにぎりせんべい AIせんべい」は2022年3月に全国で発売開始し、大きな反響を呼んでいます。

従来、商品開発におけるAI活用はパッケージやネーミングの生成が主流でしたが、商品開発そのものにAIを用いることはまだまだ少ないのが現状です。商品開発×AIで、どのようなビジネスチャンスやブレイクスルーが生まれるのでしょうか?

マスヤ営業本部副部長の加藤武正氏とデータアーティスト代表取締役の山本覚氏に、プロジェクトの裏側とAI×商品開発の新たな可能性をお聞きしました。

AIが商品開発のブレイクスルーに

――はじめに、今回のプロジェクトが生まれた経緯を教えていただけますか?

山本:私がテレビ東京のビジネス開発バラエティ番組『今日からやる会議』に出演していまして、もともとは番組内のビジネスコラボ企画としてスタートしたプロジェクトになります。

加藤:番組から「AIで新しい味を作ってみませんか?」と言われて、よく分からないけれどワクワクしたのを覚えています。何の根拠もないのですが、もしかすると商品開発のブレイクスルーになるかもしれないと思ったんです。

――当時、商品開発にどのような課題があったのでしょうか?

加藤:マスヤは創業50年以上の老舗メーカーですが、もともと「おにぎりせんべい」は丸型や四角形のせんべいが主流だった頃に三角形のせんべいを生み出したところから始まっているように、伝統を大切にしながらもチャレンジ精神を忘れない企業文化が根付いています。しかし、最近は生活者の嗜好が細分化していく中で、尖った味に挑戦すると一部の人にしか刺さらず売上が小さくなり、万人受けする味だと他社との差別化が難しくなるというジレンマを抱えており、商品開発をブレイクスルーさせる方法を常に模索していたのです。

山本:当社としても、電通グループということもあって商品まわりのクリエイティブやマーケティング領域の支援に関しては多数の実績がありましたが、商品開発や味の設計から携わるのは初めてだったので、かなり面白い取り組みになりそうだと思いました。

1兆回以上のシミュレーションで、やみつき度“最強”の食材の組み合せが判明

――「やみつきになる究極の味」というコンセプトは、どのようにして辿り着いたのでしょうか?

山本:最初、皆さんが色んなアイデアを持ってきてくださったんですよね。

加藤:「50年後に流行る味」とか「今までにない味」とか、いくつか提案しましたよね。従来の商品開発ではターゲットの嗜好やニーズから味を考案しますが、今回は「とりあえずAIを使ってみる」という遊びに近いところから発想をスタートさせて、せんべいの常識にとらわれないことを大切にしました。同時に、ビジネスとしても成立させる必要があると考えた時、「やみつき」は今までにないアイデアでありながら、何回も食べたくなるという、商品開発にとって非常に重要な要素を押さえているんですよね。「やみつき」をどう定義するのか、その時はまだ見えていなかったけれど、それをAIの力で明らかにできるなら、すごいことになるかもしれないと思いました。

※「アイデアの扉」
「アイデアの扉」マスヤ様ご出演時の動画 キャプチャを加工しております。

山本:われわれの立場からすると、アイデアの面白さだけでなく、AIで実現できるかどうかも気にしなければいけません。最初に「50年後に流行る味」と言われた時は、正直どうしようかなって思ったのですが(笑)、「やみつきになる味」ならできると判断できました。

――「やみつきになる究極の味」が実現可能と判断できたのはなぜでしょうか?

山本:機械学習には大きく分けて「分類」「回帰」「クラスタリング」という3つの手法があるのですが、まさにその中の「分類」が使えると思いました。すなわち、世の中に存在するレシピの中から「やみつき」と書かれているものと書かれていないものを分類し、「やみつき」と書かれているレシピに使われている食材の組み合わせをシミュレーションすることで、最適解を導き出すことができるのです。実際に8万2000個ものやみつきレシピの食材をAIが学習し、その組み合わせを1兆回以上シミュレーションした結果、「鶏ガラスープの素、めんつゆ、ごま油、キャベツ、ミョウガ、ニンニク、ザーサイ」の7つ食材の組み合わせが「やみつき度99.8%」を弾き出しました。

アイデアの扉
※「アイデアの扉」マスヤ様ご出演時の動画 キャプチャを加工しております。

――最適な組み合わせが出てきた時の印象はいかがでしたか?

加藤:これ、どういう味なの?というのが率直な感想ですね(笑)。やみつきになりそうな組み合わせなのはなんとなくイメージできるのですが、結局どんな味に仕上げれば良いのかが全く分かりませんでした。それに、ザーサイやミョウガはお菓子の製造ではほどんど使わないような原材料なので、材料をどこから調達するのかも考える必要がありました。

山本:AI自体はそこまで複雑なことはしていないんです。むしろ、AIが導き出した最適な組み合わせをもとに商品化するところまでのプロセスに多大な試行錯誤があったのではないかと思います。

加藤:「やみつき」って、そもそも味ではないので、正解がないんです。カレー味や明太子味なら、「これはカレーだね。明太子はもうちょっとこんな感じだね」って判断できるじゃないですか。やみつきになる味は人それぞれ違うので、開発メンバーが試作品を何度も作って、何度も人に聞いて、100回以上シミュレーションを行ってくれました。

FNNプライムオンライン
FNNプライムオンラインの記事に埋め込まれた、動画のキャプチャ画像を加工しております。

山本:僕も試作品を食べさせてもらったことがありますけれど、その時は「おいしいんだけど、食べたことある味だな?」と思うぐらいエッジを抑えたものだったんですよね。でも最終的に完成した商品はすごくおいしかったです。何味か分からないけれど、本当においしい。

加藤:まさに、「何味だろう?」という味を最終的には目指したんです。例えば、めんつゆを立たせると旨味成分が出て確かにおいしいのですが、めんつゆ味と言われてしまったら意味がありません。あえて7つの素材の際立った部分を消していく作業もしました。

――パッケージも何味か分からない絶妙なデザインですよね。

加藤:そうなんです。お菓子や食品なら「〇〇味」と書くのが普通です。なぜなら人はよく分からないものは買わないですからね。でも、今回はそこもチャレンジして味を一切記載していません。パッケージデザインは当社のデザイン室にいる女性のデザイナーがメインとなって考えてくれました。

山本:パッケージを見た瞬間、絶対売れる!って思いました。インパクトがすごいですし、拡散したくなるデザインですよね。

AIおにぎりせんべい

発売後、メディア掲載が殺到し、SNSのトレンドにランクイン

――発売後の反響はいかがでしょうか?

加藤:データアーティストさんにWebマーケティング施策もご協力いただいたおかげで、かなり多くのメディアに取り上げていただけましたし、ソーシャルメディアでも一時期バズワードのトレンド入りをしていたので、話題化という観点では期待以上の反応をいただけています。

ONEトピ
FNNプライムオンラインの記事に埋め込まれた、動画のキャプチャ画像を加工しております。

山本:AIを使った商品開発自体にある程度のPRバリューはあると思うのですが、やはり歴史のある老舗製菓メーカーがAI活用にチャレンジしたというユニークさが、これだけ多くのメディアに注目してもらえた要因だと思っています。一体どんな味なんだろう?というユーザーの期待感や、パッケージの得体の知れない感じ、実際にどんな味だったのかをシェアしたくなる気持ちなどを、うまく導くことができたのではないでしょうか。

加藤:果たして、AIが導き出したやみつき度と人が感じるやみつき度に差はあるのか、不安と興味を抱きながら、パッケージの裏側に二次元バーコードを印刷してアンケートを案内したり、SNSで味の感想を募ったりと、お客様に本当の声を教えていただくための受け皿を用意することにしました。すると、これまでおにぎりせんべいをお召し上がりいただいたことのない方などたくさんの方々が感想を寄せてくださりとてもうれしかったです。

――売れ行きも好調ですか?

加藤:今回はコンビニエンスストア先行で販売をスタートしたのですが、数値的には通常よりも好評だったと評価を頂きました。一部、地元のスーパーでも販売したのですが、そこの売れ行きも非常に好調ですし、ECモールで販売した際も翌日の米菓カテゴリでランキング1位になるなど、多くの方々に興味を持っていただけていることを実感しています。

山本:当社にも、飲料メーカーや食品メーカー、酒造メーカーなどからお問い合わせをいただいております。

――今回のプロジェクトを振り返ってみて、商品開発にAIを活用することのメリットを改めて教えていただけますか?

加藤:新しい開発プロセスを手に入れられることです。AIがある一定のエビデンスに基づいて導き出した答えは、みんなにとって納得感がありますよね。しかも、「やみつき」という、人の感情を数値で可視化することは今までなかなかできなかったことです。このデータをもとに味を組み立てる開発プロセスは、メーカーにとって新しい武器になると思いました。

山本:AIを使うことで、作って終わりではなく、改善していくこともできるんです。食べた方々のアンケート結果をもとに、7つの食材のパラメータを変えて新しいバージョンを作り、また意見をもらう。この作業を繰り返すことでどんどん最適化をかけていくことができると思います。いわゆる、Webの世界で行っているABテストを商品開発でもできるようになったら理想的ですよね。もちろん、これは味だけでなく、例えばパッケージの最適化にも使える手法です。

加藤:当社のお客様は小さなお子様からお年寄りの方々と年齢層も幅広いので、10代がやみつきになるのはこの味、みたいな最適化もあると思うんです。

山本:あー、すごく面白そうですね。20代向けAIせんべい、50代向けAIせんべいという形でカスタマイズできたら最高ですね。

AIによって新しい開発プロセスが手に入る

――AI×商品開発の成功のポイントはどんなところにあると思いますか?

山本:単にAIを使えば良いということではなく、テクノロジーに対していかに面白いコンセプトメイキングをできるかが重要だと思います。今回のプロジェクトも「やみつきになる味」というコンセプトがユニークかつキャッチーだからこそ、ここまで多くの反響があったのだと思います。

加藤:それは間違いないですよね。その上で、私は「人が関わったこと」をストーリーとして前面に打ち出した点がポイントだと思っています。決してAIだけで完結したのではなく、そこから完成に至るまでの人の試行錯誤を開発ストーリーとして表現したことで、消費者の方々により安心感を持っていただけたのかなと思います。その意味では、AI の強みと人間の強みを組み合わせることで、もっともっと面白いことができそうですよね。

山本:現状、AIはどうしてもBtoB領域で使われることが多いのですが、今回はマスヤさんの力でたくさんの消費者にAIの面白さを知っていただくきっかけが作れたので、本当に感謝しています。

加藤:われわれも老舗メーカーだからこそ、変わりたいけれど変わるきっかけが見つからないことが多々あります。データアーティストさんのような異業種とコラボすることで今までにないアイデアや刺激をもらえて、新しい一歩を踏み出すきっかけが生まれるので、この流れを止めずに今後もチャレンジしていきたいなって思います。

この記事を読んだ人は、こちらの記事もおすすめです
ABテストに革命を。結果を出すLPをつくる「Microscope」の実力
恐ろしいほど世の中が見える。バズウォッチの世界へようこそ
アイデアは企画書よりも体験を!論より証拠の「プロトタイピング」

https://twitter.com/dentsuho