読売新聞東京本社は4月27日、新事業「YOMIURI X-SOLUTIONS(ヨミウリ・エックス・ソリューションズ:略称 YxS)を発表。YxSは、ソニーネットワークコミュニケーションズの子会社であるSMNとの協業で、新聞とテレビの接触データを掛け合わせたデータマーケティングソリューションとなるという。
読売新聞は2022年、広告業へ進出する。
読売新聞東京本社は4月27日、新事業「YOMIURI X-SOLUTIONS(ヨミウリ・エックス・ソリューションズ:略称 YxS[ワイバイエス])を発表。YxSは、ソニーネットワークコミュニケーションズの子会社であるSMNとの協業で、新聞とテレビの接触データを掛け合わせたデータマーケティングソリューションとなるという。
「新聞の力はいまでもあると思っている」と、読売新聞東京本社 専務取締役広告担当・安部順一氏は、YxS立ち上げの経緯を語る。「しかし、どちらかというと宣伝予算がパフォーマンスに寄ってきているなか、ブランディングに強い新聞広告が選択肢に入れられないケースも増えていた。そのため、自社媒体の枠を超えて、広告主に提案する必要性が生じている」。
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この想いを汲むように、YxSのプレスリリースでは、次のような表現がされていた。
読売新聞東京本社はSMNとの協業により、広告業へ進出することになります。読売新聞はこれまで、日本最大の購読部数を背景に、新聞広告を中心としたソリューションを提供してきましたが、広告主のコミュニケーション施策に貢献するには、媒体社の枠を超えて、加速するデジタルシフトにも対応できる様々なソリューションを提供していく必要があると判断しました。2018年に設立したYOMIURI BRAND STUDIO(YBS)との両輪で広告主の統合型マーケティング支援を進めていくことになります。
読売新聞東京本社 専務取締役広告担当・安部順一氏
「『これはハマるな』と直感で感じた」
YxSのデータソースとなるのは、読売新聞グループの保有する、新聞読者をベースとしたCDP「yomiuri ONE(ヨミウリ・ワン)」を構成する370万IDの属性や行動情報。そして、SMNの保有するインターネット接続テレビ約780万台の視聴データ「Connected TV Data Bridge(コネクテッドTV・データ・ブリッジ:略称 TVBridge)」だ。これらを連携させ、新たに開発する「YxS アドプラットフォーム」での広告配信に活用していく。なお、この新プラットフォームが基盤としているのは、SMNが自社開発・運用しているLogicad DSP(ロジカドDSP)になる。
「今回お声がけをいただいて、『これはハマるな』と直感で感じた」と、SMNの代表取締役社長、井宮大輔氏は語る。「デジタルマーケティングで大切なのは、データとメディア。我々はデータは持っているがメディアとしては足りないところがある。それは、新聞などのマス媒体が得意とする、ブランディング領域だ。だからこそ、この座組でしっかりとした補完関係を築くことができると考えた」。
yomiuri ONEの強みは、370万IDのうち、実際に紙の新聞を購読している層が、100万ID以上が含まれているということ。それにプロ野球チームの読売ジャイアンツや旅行代理店の読売旅行、レジャー施設のよみうりランドなど、さまざまな関連会社のIDや、読売新聞のインターネットメディアの閲覧情報などをもとに、yomiuri ONEは成り立っている。
SMN代表取締役社長・井宮大輔氏
サブスクに手を染めない唯一の五大紙
ちなみに、704万(日本ABC協会「新聞発行社レポート 半期」2021年7月~12月平均)という日本最大の販売部数を誇る読売新聞は、五大全国紙のなかで唯一、デジタルサブスクリプションビジネスに手を染めていない。前述の100万IDは、紙の購読に付随する無料サービス「読売新聞オンライン」に紐づいているものだ。この数字は、国内でもっとも成功しているサブスクリプションプレイヤーのひとつ、日経電子版の有料会員数79万7362(2022年01月17日現在)よりも多い。
「紙の新聞の購読者が100万以上入ってるデータというのは、ほぼほぼ他社には存在しない」と、安部氏は語る。「というのも、そのデータは基本的に販売店、弊社の場合は『読売センター(略称 YC)』のものだからだ。販売店のビジネスを守るために『読売新聞オンライン』は、紙の新聞の購読者がすべて、追加料金不要で登録・利用できるようになっている」。
ブランドセーフティが叫ばれ、広告掲載面の品質が問われる現代においても、広告メディアは「露出量」が求められる。ユーザーが集まるところに広告も集まるのは、常に自然の摂理だ。
「yomiuri ONEの場合、全体の4分の1以上が、読売新聞を購読してるというだけでも、ひとつの大きなセグメントだ。加えて多種多様なリアル接点から生み出されたデータで構築されているので、さらに一歩進んだ顧客接点といえる」と、井宮氏は補足する。「データの絶対数からすると潤沢とは言えないかもしれないが、yomiuri ONEのデータは解像度が非常に高い。広告主にとっては、大きな魅力だろう」。
広告主・広告会社はポジティブな反応
なお、TVBridgeが保有する視聴データは、ソニーやパナソニックなど4社のスマートテレビ780万台から得られるもの。これは、ひと言でいうと、リモコンの操作履歴のことで、それに番組情報と突き合わせると、この時間にこの家庭でこういう番組を見ているというのがわかる。
さらにTVBridgeは、CMの放映データも保有。これは、それぞれのCMが、どの時間帯のどの番組で、どのくらいの量、放映されたかのデータで、過去10年に渡って蓄積している。これらに、SMNが開発した独自のアルゴリズムと人工知能「VALIS-Engine(ヴァリス・エンジン)」を用い、yomiuri ONEの個人情報も含むデータを、プライバシーに配慮して掛け合わせれば、さまざまな可能性が広がるはずだ。
「概念実証(PoC)はまだはじまっていないが、4月のリリースの反響が大きく、すでに複数社からPoCを希望する声が上がっている」と、安部氏は語る。「実際のサービスインは8月を予定しているが、7月くらいには商品プランをリリースできると思う」。
しかし、パブリッシャーがSSPではなく、DSPを直接手掛けるということは、直接取引が増えることなどを訝しむ見方もあるだろう。だが、それを危惧する立場といえる、広告会社からもポジティブな反応が返ってきているという。
「広告会社からも『面白そうなものができそうだ。詳しいところを聞かせてほしい』という反応をもらっている。これは、新たな広告手段として使えるのであればウェルカム、という意味だと思う」と、井宮氏は説明する。「我々が実現したいのは、あくまで新しいマーケティング手段の構築だ」。
YxSアドプラットフォームはオープンに
YxS アドプラットフォームは、オープンな仕組みで運用される。そのため、広告主や広告会社だけでなく、競合となるはずの他新聞社や他メディアの利用も可能だ。特に、データ量がそれほど多くないパブリッシャーが、YxSを活用する意味は大きいと、安部氏は語る。
また、これまでも読売新聞は、すでにYOMIURI BRAND STUDIOで「広告業」的なアプローチを行ってきた。ただ、それを明文化してないだけで、たとえば他社が運営するメディアの買い付けなども、YOMIURI BRAND STUDIOでは手掛けている。
「昔のように、メディアを用意してただ待っているだけでは、広告主の役に立てない状況が生まれてきた。マーケティングプラン全体に関わる提案をしていかないと、見向きもされないこともある」と、安部氏は締めくくる。「新聞社にとって読者は大切なクライアントだが、当然広告主も大事なクライアントだ。いままでのやり方にとらわれず、クライアントに納得いただけるよう、さらに大きなことへ我々と一緒にチャレンジしてもらいたい」。
Written by 長田真
Image courtesy of 読売新聞東京本社
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