社員インフルエンサー
消費者との「絆」2倍  

コメント獲得率、芸能人と比較

企業に所属しながらSNS(交流サイト)で「インフルエンサー」のように活動し、自社商品などの売り上げに貢献する――。新型コロナウイルス禍を機にそんな人がアパレル業界などで増えている。インスタグラムの投稿を分析すると、社員インフルエンサー上位層のコメント獲得率は芸能人らの2倍に達し、フォロワーと強く結びつく姿が浮かぶ。

ブランド認知、CMよりインスタ

「インフルエンサーが多様化している」。博報堂グループのデジタル広告会社、スパイスボックス(東京・港)の森竹アル取締役はコロナ禍で起きた変化を語る。一般的な知名度は低くても特定商品の情報発信で存在感を示す人が続々登場している。

若い世代を中心に、既存のメディアよりSNSの情報を買い物の参考にするようになったのが背景だ。Z世代の15~24歳の女性の69%はブランドや商品を認知する場としてインスタグラムをあげ、テレビ番組・CM(39.5%)や雑誌(13%)を大きく上回る。

 

 

フォロワーの2%超が「いいね」

アパレル業界が典型で、SNSを通じて消費者と交流する社員やスタッフが増えている。その影響力はどれほどあるのか。日本一の店舗スタッフを決める「スタッフオブザイヤー」の1次選考通過者の中で、フォロワー数の多い約100人のインスタグラム投稿を分析。タレントの渡辺直美さんやローラさんらフォロワー数上位のインフルエンサー約100人と比較した。

見えたのはやりとりを通じた支持者との強い結びつき。フォロワー数に対する「いいね」数の比率の中央値は2.3%。フォロワー数上位の芸能人ら(1.7%)を上回った。コメント獲得率も同0.0159%。0.0066%の芸能人らの2倍超だった。

 

 

新宿ミロード(東京・新宿)に入居する衣料ブランド「mystic(ミスティック)」の店長を務める森川小百合さん(25)も、インスタグラムで高い支持を得る。反響が大きかった3月22日の投稿は、閲覧人数がフォロワー数の3倍の約37万人に達した。情報が広く拡散したことを意味し、影響力の大きさを物語る。

 

「mystic(ミスティック)」の店長、森川さんはインスタグラムで高い支持を得る

 

データ解析のミソシル(東京・港)に分析を依頼したところ、投稿に「いいね」をした人の76%は女性で、うち7割は20代だった。ブランドのターゲット層と重なり、4分の3が東京都以外に住む人であることもわかった。

SNSでの支持は、遠方の人にも買ってもらう新たな商機を生む。森川さんは「スタッフスタート」というアプリでコーディネート写真に商品情報を付けて投稿し、電子商取引(EC)サイトで月数百万円の売り上げに貢献する。

アプリは店員がECサイトやSNSで発信するツール。社員インフルエンサーの活用が広がり、提供元のバニッシュ・スタンダード(東京・渋谷)によると、利用者数は2021年末に15万人超と、コロナ前の19年末の3倍弱に増えた。

 

社員活用、コスパで優位

スタッフスタートを介した21年のECの総売上高は1388億円と、2年前の3倍超に達した。ヤマダホールディングスやコーセーも導入する。SNS活用支援のFFB(東京・練馬)によると、社員インフルエンサーらを活用すると、バナー広告に比べ、インスタグラムのフォロワー1人を獲得する費用が半分以下で済む場合が多いという。

自社商品だけではない。大丸松坂屋百貨店の野崎瑞穂さん(29)は1月から、「お菓子食べすぎ会社員」としてTikTok(ティックトック)に好きな菓子を頰張る動画を投稿する。総再生数は7月初めに2300万回を超えた。

目利き力のある社員の知名度を上げ、PRを請け負う同社の新規事業の一環だ。社員インフルエンサーの活躍をどう評価し、負担に配慮するか、議論も必要になりそうだ。

大丸松坂屋百貨店の野崎さんはTikTokで「お菓子食べすぎ会社員」として投稿している

 

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