ワークマン、巧みなマーケティング戦略で広告宣伝費率は驚異の0.8%。高機能×低価格が可能にした「非常識経営」

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撮影:横山耕太郎

国内アパレル業界の中にあって、ユニクロやしまむらをもしのぐ利益率と20%もの成長率を実現している株式会社ワークマン(以下、ワークマン)。前編では、その成功要因の一つが人件費率の低さにあること、それを実現できているのはワークマンが採用しているフランチャイズモデルのおかげであることを見てきました。

従来は作業着というニッチ市場に特化し、かつ法人ではなく個人の顧客をターゲットにした経営に徹して勝ちパターンを築いてきたワークマンですが、市場がニッチなだけに、営業総収入(売上高)が1000億円程度で頭打ちになってしまうという課題に直面しました。

この局面をワークマンはどう乗り越えたのか、同社の強さの秘密を引き続き会計とファイナンスの視点から考察していくことにします。

市場の頭打ちを突破する秘策

作業着というニッチ市場の天井が見えてきたところで、ワークマンは2018年9月に新たなコンセプトの店舗形態をローンチさせました。「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」です。

ワークマンPLUS

(出所)ワークマンホームページより。

ワークマンプラスが扱う商品は、ワークマンと基本的には同じ。異なるのはターゲット顧客です。通常のワークマンの店舗が作業服を業務で使うプロの顧客をターゲットにしているのに対し、ワークマンプラスはアウトドア一般客をターゲットとしたのです

アウトドアウェア市場はここ数年伸びているとはいえ、この市場はパタゴニア、コロンビア、モンベル、ザ・ノースフェイスなど有名ブランドがひしめくレッドオーシャン市場です。実際、ワークマン専務の土屋哲雄氏の著書『ワークマン式「しない」経営』によれば、事前に同社が調査会社に依頼した市場調査ではこんな分析結果が出ていたそうです。

  • ワークマンはブランド品ばかりのアウトドアウェアには参入できない
  • ブランド力がないので購買対象にならない

にもかかわらず、ワークマンはなぜアウトドアウェア市場に打って出ることにしたのでしょうか? それは、アパレル業界の「機能性重視」かつ「低価格」というポジショニングに空白市場が存在したためだ、と土屋専務の著書の中で説明しています(図表1)。

図表1

(出所)土屋哲雄『ワークマン式「しない経営」』(ダイヤモンド社、2020年)をもとに編集部作成。

この読みは見事に当たり、新業態のワークマンプラスは躍進。相乗効果で既存のワークマンにも一般顧客が多く来店し、2019年8月には既存店売上高が前年比154.7%にまで増加しました。

実際、私もワークマンの商品を持っていますが、初めてワークマンの商品を使ってみたときには、その機能性の高さに比して価格があまりにも安いことに衝撃を受けました。

ワークマンの商品はその機能性の高さから、これまでも想定を超えた使われ方をたびたびされてきました。土屋専務が著書で明かしている代表的なエピソードを要約すると、およそ次のとおりです。

  • 防水防寒スーツ:建設作業者等の屋外作業者向けに作った防水防寒ウェアがバイクユーザーに売れていた。
  • 厨房向けの靴:水回りでもすべりにくい厨房で働く人向けに開発した靴が、滑りにくいということで妊婦の間で話題に。
  • 羊毛の靴下:保湿性の高いメリノウールが登山愛好家に売れた。
  • エプロン:店員用や花屋向けに開発した「耐久撥水リップストップエプロン」が一般顧客にガーデニング用として人気に。またレストラン用の焦げにくい「難燃防汚胸付きエプロン」が主婦に受け入れられた。

ワークマンの商品の品質の高さを物語るこうした前例も、アウトドアウェア市場へ参入するという意思決定を後押ししたのではないでしょうか。

ワークマン女子の躍進はここ2年

ワークマンプラスに続き、最近メディアでもたびたび取り上げられ注目を集めているのが「#ワークマン女子」です。

#ワークマン女子という言葉が決算で初めて登場したのは、2020年3月期の第1四半期(2019年6月末)決算と、比較的最近のことです。このときはデジタルマーケティングの一環としてInstagramにおける「#ワークマン女子」の活用方法が紹介されているだけで、具体的な店舗開発の話題は出てきていません。

決算関連の資料で再び#ワークマン女子という言葉が出てくるのは1年後、2021年3月期第1四半期(2020年6月末)の決算説明資料です。

図表2

(出所)ワークマン 2021年3月期の第2四半期決算説明資料より。

同年10月、ワークマンは神奈川県横浜市に#ワークマン女子1号店をオープンさせると、そこからわずか2年後となる2023年第2四半期(2022年9月末)には#ワークマン女子を22店舗まで増やしています。今後の#ワークマン女子はすべてワークマンシューズとの複合店で出店することで、客層のいっそうの拡大を目指しています。

図表3

(出所)ワークマン 2023年3月期の第2四半期決算説明資料より。

ワークマンは今後1500店舗を出店する計画を立てていますが、従来のワークマンはわずか200店舗のみで、主力はワークマンプラス900店舗、#ワークマン女子400店舗という目標を掲げています。

図表4

(出所)ワークマン 2023年3月期の第2四半期決算説明資料より。

「作業服×個人」というニッチ市場の原点から、「高機能×低価格」という新機軸でアウトドアウェア市場、さらには女性向け市場へ。強みを生かしながら領域を広げていき、ユニクロやしまむらより高い利益率、成長率を実現するワークマンの手腕は実に見事です。

広告宣伝費が圧倒的に低い

ここまで市場開拓という視点からワークマンの成長戦略を見てきましたが、もちろん市場を開拓するだけで年20%もの成長を達成できるわけではありません。特に消費者向けビジネスでは、いかに幅広い人々に認知してもらえるかが重要になってきます。

では、ワークマンはどれほどの広告宣伝費をかけているのでしょうか。ユニクロ、しまむら、ワークマンの売上高(営業総収入)に占める広告宣伝費の比率を比較した図表5をご覧ください。

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