アトリビューションは長年、デジタルマーケターの頭痛の種でした。そうした課題を解消できるソリューションも少しずつ生まれています。デジタルマーケティングの未来に示唆を与える用語をわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回は、「マルチタッチアトリビューション」について説明します。
アトリビューションは長年、デジタルマーケターの頭痛の種でした。
顧客が広告をクリックし、商品を購入した場合、その広告が顧客を納得させ、商品を購入させたことになります。しかし、その広告をクリックする前に、ほかの広告をいくつも見ていたらどうでしょう?
デジタルマーケティングの未来に示唆を与える用語をわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回は、「マルチタッチアトリビューション」について説明します。
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──とりあえず、マルチタッチアトリビューションとは何ですか?
ラストクリックアトリビューションでは、顧客が最後にクリックした広告のおかげで売り上げにつながったと評価します。しかし、ブランドは音声、テレビ、屋外広告といった従来型のプラットフォームへの投資を強化しており、その結果、2つの問題が生じています。まず、これらはデジタルプラットフォームでないため、単純にクリック数を追跡し、顧客が商品を購入するかどうかを判断できません。次に、マーケティングチャンネルが増えるほど、顧客がどこでブランドを知ったかがわかりにくくなります。
マルチタッチアトリビューションでは、最初に見た広告から最後に見た広告まで、購入サイクル内での顧客の動きをチャート化します。そして、その顧客が商品を購入した際、どのマーケティングチャネルがもっとも重要な役割を果たしたかを判定します。
フリーランスマーケターのためのプラットフォームを運営するマーケットハイアー(MarketerHire)のCEO兼共同創業者クリス・トイ氏は「マルチタッチアトリビューションの本当の目的は、マーケティングミックスのどの部分がどのような役割を果たしているかを理解することだ」と述べています。
──誰がそのようなことを気に掛けるのですか?
すべてのマーケターです。GoogleやFacebookの広告に全予算を投じているだけのマーケターは例外ですが。どのような広告が効果的で、それらが売り上げ増加にどれくらい貢献するかを把握することは極めて重要です。また、クリックの誘導を専門としていないプラットフォームやパブリッシャーも、顧客が望ましい行動を取るように導いた手柄を欲しがっています。
──マルチタッチアトリビューションの測定方法は?
マルチタッチアトリビューションにはさまざまなモデルがあり、評価の方法も評価の対象となるマーケティングチャンネルも異なります。線形モデルでは、顧客が商品と接したすべての場所を均等に評価します。たとえば、調理器具一式を購入した人が、最初にPinterest(ピンタレスト)で広告を見て、Facebookの広告をクリックした場合、Pinterest広告とFacebook広告の両方が購入に貢献したと評価されます。
タイムディケイ(時間減衰)モデルでは、ファネルの底に近い広告ほど高く評価されます。U字形モデルでは、最初と最後のタッチポイントに関わったチャンネルを高く評価します。
マーケティングプラットフォームは、ブランドがマルチタッチアトリビューションの測定方法を理解する手助けをすることに好機を見いだしています。マルチタッチアトリビューションを実践するには、いくつものチャンネルを測定するためのリソースが必要になるためです。たとえば、Googleアナリティクスには、マルチタッチアトリビューションのモデリングシステムが組み込まれています。ニュースター(Neustar)、ニールセン・ビジュアルIQ(Nielsen Visual IQ)などのベンダーも小売企業に、マルチタッチアトリビューションの測定を支援するソリューションを販売しています。
──ほかより優れたモデルはありますか?
いいえ。万人向けのマルチタッチアトリビューションモデルは存在しないと、マーケターは口をそろえます。企業がどのような商品を販売しているか、顧客を説得し、商品を購入してもらうまでにどれくらいかかるかによって、最適なモデルが異なるためです。たとえば、サングラスのように、商品が衝動買いできる価格帯の場合、顧客は2~3回広告を見ただけで購入する可能性があります。
ヘルスケア関連のネット直販(Direct to consumer:以下、D2C)ブランド、ロー(Ro)で成長担当バイスプレジデントを務めるウィル・フラハティ氏は「それぞれのチャネルがどのように貢献したかを本気で意識しなければならない」と話しています。「eメールのサインアップを促したチャネルに重きを置くモデルがあってもいいと思う。eメールの流れに入り込んだ人物は、コンバージョンの可能性が高まるためだ。カスタマージャーニーについて真剣に考え抜く必要がある」。
──D2Cブランドがよく用いるモデルはありますか?
多くのD2Cブランド、なかでも、自前でマーケティングを開発することに慣れているブランドは、独自のアトリビューションモデルを構築しようと試みます。そのためには、複数のデータ収集方法を用意し、顧客がどの広告を見たかを判断しなければなりません。具体的には、クリックデータの収集や購入後の調査です。購入後に調査を行えば、どこでブランドを知ったかがわかります。
また、検討から購入までのサイクル全体で顧客を追跡できるよう、データ収集能力を洗練させる必要があります。
カスタムスーツメーカーのインドチノ(Indochino)は、独自のアトリビューションモデルを構築したブランドのひとつです。同社は2017年、独自モデル開発への投資を開始しました。マーケティングディレクターのリサ・クラベイロ氏によれば、PRや店頭での紹介など、「測定不能と考えられてきた従来のチャネル」も考慮に入れたそうです。
インドチノのCEOドリュー・グリーン氏は6月、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、「私たちにとっては、生涯価値(LTV)が極めて重要だ」と語っています。同氏は「重要なのは、12、24、36、48カ月の生涯価値をチャンネル別で把握すること」と述べ、インドチノのモデルはこの点を重視しています。
ただし、カスタムモデルの開発には欠点もあります。
ペットフードのD2Cブランド、オリー(Ollie)で成長担当バイスプレジデントを務めるエバン・ウッズ氏はeメール取材に応じ、「マルチタッチアトリビューションには正確に遂行しなければならないことがいくつもあり、パートナーを雇ったら、非常に高くつく」と述べています。「自前で効果的に遂行するには、データサイエンス、テクノロジー、マーケティングチームの支援が必要だ。さらに、時間をかけて微調整を繰り返し、きちんとしたものに仕上げなければならない」。
──マルチタッチアトリビューションはどれくらい重要になるでしょう?
マーケットハイアーのトイ氏は、若いD2Cブランドは自前のマルチタッチアトリビューションシステムを開発、改良することにこだわり、時間を浪費することがあると考えています。
「それでは実際の問題から目をそらすことになる。実際の問題はおそらく、広告の出来が悪いこと、ブランドそのものがあまり良くないこと、価格設定がまずいことなどだ」と、トイ氏は言います。
「売り上げが1000万ドル、1500万ドル、2000万ドルの壁にぶつかった」とき、より洗練されたアトリビューションモデルを開発する方法について考えはじめるのが理にかなっていると、トイ氏は話しています。ただし、ベンチャーキャピタルの出資を受けていて、潤沢な資金がある場合は、もっと早くから考えても構わないそうです。
トイ氏は次のように述べています。「資金的な余裕がある大企業であれば、(予算を)2%増やし、大きく投資する価値は十分あります。年間売り上げが2億ドルあれば、かなりの金額を投じることができるだろう」。
Anna Hensel (原文 / 訳:ガリレオ)