中国でのコロナウイルスの感染拡大は、第3四半期のナイキの事業にも打撃を与えた。同社は現在、ウイルスが猛威を振るう米国での影響に備えている。同社が期待しているのは、拡大を続けるD2C部門とロイヤルティプログラムによる損失の補填だ。
中国でのコロナウイルスの感染拡大は、第3四半期のナイキ(Nike)の事業にも打撃を与えた。同社は現在、ウイルスが猛威を振るう米国での影響に備えている。同社が期待しているのは、拡大を続けるD2C部門とロイヤルティプログラムによる損失の補填だ。
コロナ禍でも中国ECは30%増
3月24日にナイキは第3四半期の業績発表を行った。それによれば同期の収益は101億ドル(約1090億円)で、これは前年同期比で5%の増加だが、利益は8億4700万ドル(約914億円)で同23%の減益となっている。ナイキは減益について、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ウルグアイにおける販売網再編のため非現金の一括償却として4億ドル(432億円)を割り当てたほか、コロナウイルスによる中国事業への影響を理由として挙げている。
ナイキの第3四半期は2月29日までで、これは米国におけるコロナウイルスの感染拡大以前であり、中国における感染が最悪の事態となっていた時期にあたる。同四半期におけるナイキの中国での総売上は4%減と述べられている。それまでナイキは中国国内で22四半期連続で2桁成長を続けてきた。中国におけるコロナウイルスの感染拡大がピークとなった2月に、ナイキの中国店舗(自社店舗および卸売パートナーを含む)の75%が休業または営業時間を短縮している。
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同社はプレスリリースで、コロナウイルスの感染拡大のさなかでも中国におけるオンライン販売は30%増となったと発表している。CEOのジョン・ドナフー氏は「中国が回復基調に入りつつあるなかで、ナイキは現状を乗り切る最大限の準備ができている」と語っている。同氏はさらに、第4四半期における中国での売り上げは前年同期と同水準になる見込みで、中国における対応をほかの地域でも運用していくと述べている。
閉鎖状況でもD2C事業に期待
ナイキは3月16日の段階で米国内の店舗を臨時休業している。それによってウェブサイトから直接購入するカスタマーが増えるとも考えられるが、中国では米国人よりもはるかにオンライン購入が盛んだ。eマーケター(eMarketer)の推算によれば、2022年にはオンラインでの小売販売の実に63%が中国で行われる見込みだという。一方、米国では同15%であり、コロナウイルスの感染拡大下にあっても、米国では中国のカスタマーと同じ動向は期待できない可能性もある。
ナイキは米国でも昨年売り上げを安定して伸ばしている。たとえばデパートでは良くて0.5%の増加であり、ナイキはほかのアパレル企業より良い状況にあるといえる。同社には負債もなく、近年は多数の閉店を出すようなこともなかった。さらに卸売のパートナー企業への依存度も減少している。同社はD2C事業のナイキダイレクト(Nike Direct)を展開しており、自社店舗やウェブサイトでの販売が増加しているためだ。
つまりナイキは、たとえフットロッカー(Foot Locker)などの卸売パートナーの店舗がコロナウイルスにより休業している状況下でも、オンライン注文を増やすためのインフラとマーケティング機能を持ち合わせているのだ。ナイキダイレクト事業の一環として、同社は自社製アプリのダウンロードを増やそうと取り組んでいる。同社が提供している主力ショッピングアプリがNike+だ。これは店舗商品の予約などの機能がある。また限定版商品を扱うアプリのSNKRSや、トレーニングアプリのNike Run ClubやNike Training Clubなども展開している。
業績発表のなかで、ドナフー氏は中国におけるNike Run ClubとNike Training Clubのダウンロード数やエンゲージメント率の高さについて言及し、「ナイキの商業アプリの力強いエンゲージメントにつながっている」と指摘している。同社は米国や欧州の買い物客に向けても、これらアプリの普及に取り組んでおり、当面のあいだNike Training Clubの有料トレーニングを無料で提供している。
東京五輪の延期という新たな課題
だがナイキには大きな課題が待ち受けている。そのひとつが、同社のスポーツウェアの多くがバスケットボールなどのチームスポーツ向けになっていることだ。カスタマーが自宅にいざるを得ない状況のなかで、市場も縮小するおそれがある。また同社が東京五輪に向けて組んでいた在庫計画も、国際オリンピック委員会が3月第3週に発表した延期への対応が必要だ。
ナイキは2月の時点で米国のオリンピック代表選手向けにデザインされたユニフォームを発表している。これはリサイクルされたポリエステルと靴の部品から作られている。それに伴い同社は持続可能性への取り組み「Move to Zero」の製品コレクションも発表している。
同コレクションについてジェーン・ハリ&アソシエイツ(Jane Hali & Associates)の小売リサーチアナリストのジェシカ・ラミレス氏は、環境指向のカスタマー向けにマーケティングすることで、まだ救えるかもしれないと分析する。だが、オリンピックの見通しが不透明な状況下で、同社にとって在庫管理が難しいこともまた確かだ。
解決策としてEC限定セールを実施
店舗が休業するなかでも売り上げを伸ばす試みとして、ナイキはウェブサイトにおける25%の割引を発表した。
「ナイキのサイトは通常時も、流行から外れた衣類や色の商品を値引きしている」と、ラミレス氏は語る。「(25%は)かならずしも驚くほどの割引ではない」。
※記事公開後、タイトルの一部に修正を加えました。
Anna Hensel(原文 / 訳:SI Japan)