さる1月7日、D2CのビューティブランドであるアーバンスキンRx(Urban Skin Rx)は売り上げが急増した。同社チームはTikTok(ティックトック)がその売上急増の要因であることを突き止めた。この1月以降、全チャネルの月間売上は150%増加し、クレンジングバーの売り上げは220%の伸びを示している。
さる1月7日、ノースカロライナ州シャーロットにあるアーバンスキンRx(Urban Skin Rx)のオフィスに足を踏み入れた同社の創業者でCEOのレイチェル・ロフ氏は、いつもと様子が違うのに気づいた。
同ブランドのD2C(Direct to Consumer)の売り上げが急増していたのだ。メガインフルエンサーのダイアナ・デネリス・デ・ロス・サントス氏(@amaralanegraaln:フォロワー数210万人)に依頼したインスタグラム投稿がアップされてはいたが、デ・ロス・サントス氏と組むのは、はじめてではなく、以前の投稿で得た売上増とは勢いが違った。5時間後、チームはTikTok(ティックトック)がその売上急増の要因であることを突き止めた。アシュリー・ボッグズ氏(@niceoneashley)というひとりのユーザーが、同ブランドの主要製品「イーブントーン・クレンジングバー(Even Tone Cleansing Bar)」を取り上げ、使用前と使用後の比較動画を投稿したのがきっかけだった。D2Cだけでなく、アルタ(Ulta)、ターゲット(Target)、CVSなどの小売パートナーでも売り上げが増加していた(アーバンスキンRxの取扱店舗は4000を超える)。この1月以降、全チャネルの月間売上は150%増加し、クレンジングバーの売り上げは220%の伸びを示している。
3月9日現在、火付け役となったTikTok動画の再生回数は590万回、アーバンスキンRxが立ち上げたハッシュタグ「#clearskinchallenge」(クリアな肌チャレンジ)の閲覧数は440万回を数え、ブランドのハッシュタグ「#urbanskinrx」も870万回閲覧されている。このバイラル現象によってアーバンスキンRxはうれしい混乱状態に見舞われ、サプライチェーン、オペレーション、マーケティングに影響が生じている。一方で、バイラル化の舞台となったTikTokは、それでも成功できるかを試すように、ブランドによるメッセージの発信に制限を加えている。
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「我々はちょうど会社の予算を決める最終段階に入っていたが、今回のことを受けて、影響がどれだけ続くかを理解する必要が出てきた」と、ロフ氏は話す。「この勢いがいつまで続くのか予想もつかないため、予算を使いすぎることなく在庫を増やし、どれだけの人数を雇う必要があるかを見極めるのが難しい」。ロフ氏によると、アーバンスキンRxのD2Cのコンバージョン率は3%で、顧客の50%がブランドの製品を再購入している。
売上急増の対応にてんやわんや
第1の難問は、総売上額に占める比率が同程度であるD2Cと卸売りのどちらにも、十分な在庫を確保することだ。アーバンスキンRxは総売上額を明らかにしなかったが、複数の報道を総合すると、同社の年間売上は200万ドルから1000万ドル(約2.2億〜11.1億円)のあいだとみられる。ロフ氏によると、TikTok景気の効果でアーバンスキンRxの2020年の売上高は70%増と、当初予測を36%上回る見込みだという。
創設10年のアーバンスキンRxは、まだ何カ月分もの在庫を抱えるには規模が小さすぎるとロフ氏はいう。アーバンスキンRxは、自社ウェブサイトで2オンス(約57グラム)と3.7オンス(約105グラム)のクレンジングバーを販売しているが、小売店では2オンスの製品しか扱っていない。小売店で2オンス製品の在庫が減りはじめたため、同社は限定数の3.7オンス製品を2オンス製品用のカートンに入れ、期間限定で大型サイズ製品を販売する旨のステッカーを貼って出荷した。小売店では、それが2オンス製品と同じ価格で販売された。
サプライチェーンの調整と並行して、同社は新たに手に入れたTikTokでのプレゼンスにも対処しなくてはならなかった。アーバンスキンRxは通常、インスタグラムで顧客から直接寄せられたメッセージやコメントについては、スプラウト・ソーシャル(Sprout Social)のソーシャルメディア管理プラットフォームを通じて対応しているが、TikTokのほうは完全に手作業で対応していると、ロフ氏はいう。同社はカスタマーサービス担当者を新たに2人雇い、うちひとりをTikTok専任とした。またソーシャルメディアとインフルエンサーを担当するシニアマネージャーは目下、半分の時間をTikTokに割いている。TikTokではコメントが125文字までに制限されるため、同社は顧客への適切な対応方法について検討中だ。クレンジングバーのほか、アーバンスキンRxはボディケア製品やサプリメント、美容ツールを販売している。そしてそれらの製品について、チームはTikTokユーザーを教育したいと考えている。バイラル化して以降、顧客が肌の悩みに対して間違った製品を使用する動画が一部で投稿され、ネガティブな評価が出はじめていると、ロフ氏は話す。
「まったく異なる世界としてアプローチ」
TikTokで予期せぬブレイクを果たしたブランドはアーバンスキンRxだけではない。同アプリは露出を最大限に高めるように作られており、それは時としてレイ・ウェルネス(Rae Wellness)のサプリメント販売中止騒動のようなトラブルを招く。あの一件は、TikTokでのプレゼンスが急速に拡大しうること、また突然の成功が予期せぬ大きな影響をもたらすことを示す事例だ。アーバンスキンRxとしては、このプラットフォームに適応しようとできる限りの努力をしている。TikTokはすでに今後のマーケティング計画に正式に組み入れられていると、アーバンスキンRxのマーケティングディレクター、アマンダ・ナップマン氏はいう。
アーバンスキンRxは2月半ばにTikTokにコンタクトをとり、正式に広告オプションを検討したいと申し入れたが、先方からは3月に入るまで返答がなかったとロフ氏はいう。返事を待つあいだ、同社はハッシュタグ「#clearskinchallenge」を立ち上げ、ユーザーをブランドのハッシュタグに誘導しようとしている。TikTokユーザーへの製品の無料提供も開始した。同社はインフルエンサーマーケティング・プラットフォームのフォー(Fohr)を通じ、製品の提供を受けてチャレンジに参加したいユーザーを募った。現時点で50人がチャレンジに参加し、600人が参加を希望している。また、バイラルの火付け役となったユーザーのボッグズ氏とも有料パートナーシップの契約を結び、契約インフルエンサーに充てる予算を40%増額した。
「TikTokユーザーは一夜にして有名になるため、制作され、キュレートされたコンテンツをもたない」と、ナップマン氏は話す。「まったく異なる世界として理解し、アプローチしなくてはならない」。
TikTokチームとの共同作業
同社はTikTokに最初にコンタクトした後で調査を行い、シグネチャー・アド・プロダクト(Signature Ad Product:TikTokのハッシュタグチャレンジの正式名称)を利用するのに15万ドル(約1664万円)の費用がかかる可能性があることを知った。ようやく電子メールで連絡を返してきたとき、TikTokチームは同社に最低支払額の案内をせず、代わりにキャンペーンを最適化するための標準的なKPI(CPC、CPM、CPVなど)に関するベンチマークを提示してきた。
「TikTokのアルゴリズムは非常に独特で、ほかと異なるため判断が難しい。我々としては、自社のコンテンツを評判のいいオーガニックコンテンツに似せたいという考えがあった」と、ナップマン氏は話す。
アーバンスキンRxは現在、スポンサードキャンペーンのさまざまな購入オプションやベンチマークについてTikTokと話し合っており、ロフ氏によると、3月中にキャンペーンを開始する見込みだという。同社はキャンペーン用にオリジナルソングを制作しており、2種類のクリエイティブコンセプトをテストする予定だ。1つ目のコンセプトは、ユーザーが真似したくなるようなダンスを用いてのダンスチャレンジ。2つ目は、バイラルの火付け役となったビデオと同様の使用前・使用後の比較だ。ロフ氏とナップマン氏によると、アーバンスキンRxの従業員はミレニアル世代が多いため、Z世代の若者が集まるプラットフォームを理解しようとすることは、彼らにとってやや不慣れな試みだという。
この2カ月間に経験したこと
この2カ月間に自身が経験したことを、ロフ氏は簡潔にこうまとめた。「TikTokは我々の生活を支配している」。
「動きやダンス、音楽が大きなテーマであるのは理解できるが、興味深いのは、TikTokではポジティブさやオープンさ、透明性もテーマになっている点だ」と、ナップマン氏は指摘する。「セルフィー文化において、ユーザーは自身の弱さをさらけ出すような写真や動画もシェアしている」。
Emma Sandler(原文 / 訳:ガリレオ)