アメリカの美容、化粧品業界では、新型コロナウイルス感染拡大を受け、eコマースにライブストリーミングをいち早く取り入れる動きが見られる。ロレアルグループ(L’Oréal Group)も、感染症対応の施策としてライブコマースに乗り出した。
アメリカの美容・化粧品業界では、新型コロナウイルス感染拡大を受け、eコマースにライブストリーミングをいち早く取り入れる動きが見られる。
インスタグラムの「インスタライブ」には、いまのところショッピング機能が備わっていない。そのため各社は、ショッピングサイトへのリンクが可能なほかのプラットフォームを採用し、ライブ配信動画を視聴しながら商品を購入できる「ライブストリームショッピング」(以下、ライブショッピング)のサービスを提供している。
そんななか、化粧品大手エスティ―ローダー(Estée Lauder)に続き、ロレアルグループ(L’Oréal Group)も、感染症対応の施策としてライブコマースに乗り出した。
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「必要に迫られた」
ロレアルグループ傘下のブランドであるアーバンディケイ(Urban Decay)、ランコム(Lancôme)、NYX(NYX Cosmetics)、イットコスメティックス(It Cosmetics)は、北米向けの公式Webサイト上でライブショッピングを開催している。アーバンディケイとランコムは、ショッピングプラットフォーム開発のライブスケール(Livescale)と提携し、新型コロナウイルス感染症の流行前から、カナダ向けサイト限定でこの取り組みをはじめていた。
しかし、アーバンディケイの米国向けサイト、NYX、キールズ(Kiehl’s)、イットコスメティックスなどの多くのブランドは、3月に米国各地でロックダウン(都市封鎖)が発令されたあと、Webサイト上でライブ配信を開始。その一例が、アーバンディケイ開催の「プライドイベント(LGBT文化を讃えるイベント、プライドパレードともいう)」の一環として、6月30日に配信されたチュートリアル動画だ。カナダのドラァグクイーンである、ソフォンダ・コックス氏が出演し、メイクアップのコツを伝授した。また、キールズは公式サイトで7月8日、スキンケアのチュートリアル動画を配信。両ブランドとも、商品の割引やプレゼントの特典つきキャンペーンを実施している。
また、NYXもプライドイベントとして、ライブショッピングを開催している。 NYXのグローバル教育開発部門長で、メイクアップアーティストでもあるマーク・アナスタシオス氏は、4月24日公式サイトのチュートリアル動画のライブ配信に出演。視聴を完了し、対象商品を購入した顧客は送料が無料になると語った。5月20日には、メイクアップアーティスト兼写真家でもある人気インスタグラマーのマット・バーンスタイン氏が出演したプライドイベントが行われ、メイクアップのチュートリアル動画を通じて、NYXの商品が紹介された。
「多くの企業と同様、我々もロックダウンが最初に発令されたとき、一歩引いて状況を判断し、施策を再検討した」と語るのは、NYXプロフェッショナル・メイクアップ(NYX Professional Makeup)の米国マーケティング部門で、シニアバイスプレジデントをつとめるヤスミン・ダストマルチ氏だ。「数週間も経たないうちに、対面形式によるイベントはすべて中止になった。当初の計画が一瞬にして崩れ去り、マーケティング手法をただちに変える必要に迫られた」。NYXではさらに、公式サイトで提供する現行のライブショッピングに加え、8月からはインスタグラム経由のライブショッピングの試験運用を行う予定だという。
高まるライブショッピング需要
ライブストリーミング専業各社のなかでも、特に新規のクライアントを大きく伸ばしているのがライブスケールだ。今年3月以降、問い合わせ件数が5倍に増えたという。2016年の創業以来、ライブスケールはセールスフォースコマースクラウド(Salesforce Commerce Cloud)との協業など、eコマース分野のパートナーシップを拡大。6月25日からは、ショッピファイ(Shopify)との提携を通じ、北米の事業者向けにショッピファイのアプリストアで入手可能なサービスを開始した。
新型コロナウイルス感染が広がるなか、ライブ配信を取り入れているビューティブランドは、ロレアルグループだけではない。エスティローダーは、スウェーデンのプラットフォームベンダー、バンブーザー(Bambuser)と提携した。一方、インスタライブやTikTokのライブストリーミング機能を導入するなど、SNSのプラットフォームを活用するブランドも増えつつある。TikTokのライブストリーミングには、ユーザーが「バーチャルギフト」を購入できるプログラムがある。次世代eコマースの到来を予感させるこのバーチャルギフト機能は、中国のドウイン(抖音)でもすでに導入済みだ。また、テレビショッピング大手のQVCやHSNだけでなく、Facebookライブ動画の採用も進んでいる。
ライブスケールの創業者、ヴァージル・オリヴィエ氏によれば、同社のクライアント企業が開催するライブショッピングイベント中のコンバージョン率は、平均9.5%にのぼるという。「顧客エンゲージメント施策としてライブストリーミングを取り入れ、視聴者とイベントホストのあいだの対話を成立させつつ、シームレスな購買体験を提供したことが、アジアにおけるライブコマース成功の鍵だ」と、オリヴィエ氏は述べた。
データ収集とオーディエンスの囲い込み
また、スキンケアブランドのシャニ・ダーデン(Shani Darden)は5月後半、同社初のライブショッピングをライブスケールのプラットフォーム上で開催し、エステティシャンによる肌のお手入れ法のチュートリアル動画を配信。
「感染症流行を期に、当社でもライブコマースの本格的な取り組みがはじまった」と、マーケティング部門シニアディレクターのクリサンタ・ジャーマン氏は語る。ライブストリーミングは、特にチュートリアル動画に適した手法だとして、その理由を述べている。「オンラインプラットフォームの同一モジュール内で動画を配信中に商品へ誘導できるため、利用者にとっては商品を検索する手間が省けるからだ」。
この種のライブストリーミングをインスタライブと比較した場合、現時点ではショッピング機能以外の技術面でも優位性があるようだ。「インスタライブでは、同時にライブ配信をしているユーザー数が非常に多いので、プラットフォームとしての機能に支障が出る場合がある。そこで我々は、複数のプラットフォームを利用して負荷を分散した」。ジャーマン氏が述べるように、シャニ・ダーデン公式サイトのライブ配信は、映像がより鮮明で、再生中の遅延もない。
加えて、サイト埋め込み型ライブストリーミングのもうひとつの利点は、ブランド側がエンゲージメントやコンバージョン率関連のデータを入手する際、わざわざ外部のソーシャルプラットフォームにアクセスする必要がないことだ。「eコマースを展開するブランドにとっては、データの収集とオーディエンスの囲い込みが重要になる。知見を蓄積し活用することが顧客サービスの改善に繋がるからだ」とオリヴィエ氏はつけ加える。
しかし、北米向けeコマースを展開しているビューティブランドが、すべてライブショッピング導入に動いているわけではない。キールのスポークスマンが主張するように「ライブショッピングの優先順位はさほど高くない」という見方もあるのだ。
当初の予想を上回る勢い
前出のジャーマン氏は「メイクアップやカラー商品の分野では、ライブストリーミングの需要が今後ますます高まる」と予測している。「メイクアップの方法を教えてくれるチュートリアル動画をライブで視聴し、その場でコメントを投稿したり出演者に質問したりできる双方向コミュニケーションは、YouTubeでよく見かける一方通行の映像では不可能だ」。
ライブスケール代表のオリヴィエ氏も、同様の見通しを立てている。「新型コロナウイルス感染症大流行の影響で、ライブショッピングは当初の予想を上回る勢いで普及していくだろう。世界各地のライブショッピング視聴者数は今後、アジアに匹敵するレベルにまで伸びると我々は確信している」。
NYXのダストマルチ氏は「当社は、バーチャルで消費者生活を支える施策を長期的に継続する方針だ」と明言した。
[原文:L’Oréal Group bets on livestream shopping in North America]
LIZ FLORA(翻訳:SI Japan、編集:Kan Murakami)