ナイキは、7月9日に中国の広州でオープンする新店舗で、この小売フォーマット「ナイキライズ(Nike Rise)」をテストする。ナイキライズの焦点は、店舗内での新イベントの主催やアプリへの新機能の追加によって、地元のスポーツ愛好者のハブとなる店舗になることだ。
D2Cビジネスの売上高の割合を増やす計画の一環で、ナイキ(Nike)は売上を伸ばすべく、この数年間に多くの新店舗を順次オープンしてきた。現在は、買い物客がもっと足繁く通う店舗になるのを期待して、新しい小売フォーマットを発表しようとしている。
ナイキは、7月9日に中国の広州でオープンする新店舗で、この小売フォーマット「ナイキライズ(Nike Rise)」をテストする。ナイキライズの焦点は、店舗内での新イベントの主催やアプリへの新機能の追加によって、地元のスポーツ愛好者のハブとなる店舗になることだ。
新店舗携帯「ナイキライズ」の狙い
ナイキはD2C売上を伸ばそうとしているため、店舗の商品をもっと買うよう顧客に訴えかけるだけでなく、より頻繁に店舗を訪れたり、顧客に関するより多くのデータをもたらすアプリのようなサービスの利用を増やすよう、顧客を納得させる必要もある。しかし、より頻繁に店舗を訪れるよう顧客に求めるのは、新型コロナウイルスへの感染がまだ拡大している世界の地域では難しい。イベントのような、小売業者が来店頻度を増やすためにしばしば利用している手法が、新型コロナウイルスのアウトブレイク後にも効果的であるのかどうかは現時点では不明である。
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5月31日に終了した直近の会計年度では、ナイキの売上高の34.8%近くが、店舗とウェブサイト両方を含むD2Cビジネスによるもので、前年と比べると31.6%増加した。
ナイキがD2Cビジネスを拡大するひとつの手段は、より多くの店舗をオープンすることだ。2019年末の時点で、ナイキは世界各国に1134超の店舗を構えていた。CEOのジョン・ドナヒュー氏は6月に、直近の決算発表で、今後2~3年のうちに150~200店舗をオープンする計画だと発表した。
「ナイキは消費者をエンゲージさせる術をわかっているし、イベントの開催方法をわきまえている」と、ジェーン・ハリ&アソシエイツ(Jane Hali & Associates)の小売リサーチ担当、ジェシカ・ラミレス氏は語る。だが、ラミレス氏は、買い物客のあいだで今、対面型イベントへの需要があるのか疑問視した。
店舗戦略における全体的なシフト
グローバルバイスプレジデント兼ナイキダイレクトストア担当ゼネラルマネージャーを務めるキャシー・スパークス氏によると、ナイキライズは、ナイキの店舗戦略における全体的なシフトの一環だ。ナイキはより多くのナイキライズストアをオープンし、このコンセプトに合うように既存店を改革する計画を立てているという。ナイキライズストアは、広さが1万5000平方フィート(約1390平方メートル)を超え、ナイキの他の小売コンセプトの中心におかれる。
ナイキライズストアに加えて、ナイキはこの2年間に上海とニューヨークに新しい旗艦店2店舗をオープンし、「ハウス・オブ・イノベーション(House of Innovation)」ストアと呼んでいる。年内にパリに3店目のハウス・オブ・イノベーションストアをオープンする計画を立てている。それらの店舗は、広さが5万平方フィート(約4645平方メートル)を超え、買い物客がスニーカーを試着できるミニバスケットボールコートなど、店舗のあちこちに双方向性を高めた機能を備えている。
対極をなすコンセプトとして、ナイキはこの1年間に、5000平方フィート(約465平方メートル)の「ナイキライブ(Nike Live)」ストアも少数展開している。ナイキライブは通常、その地域のナイキアプリユーザーにもっとも人気で回転率の高い製品を少数扱っている。
「我々は中国から物事を始めてきた」
「ナイキは常に、アスリートをスポーツに結びつけてきたが、今は健康と結びつけている」と、スパークス氏は話す。「スポーツが存在する都市の地元メンバーにサービスを提供することに注力しており、地元広州のスポーツチームや草の根レベルのリーグ、メジャーな大会に出場する大手サッカークラブの活気を店舗に持ち込んでいる」。
新しい広州店のディスプレイには、デジタルのイベントカレンダーを設置し、ナイキが提携する近隣のスポーツセンターで従業員が主催するバスケットボールやサッカーの試合にスポットライトを当てる。買い物客は、ヨガやランニング、サッカーのような特定の競技を専門とするナイキのスタッフとのマンツーマンのセッションに登録し、製品やトレーニングについて質問できる。店舗では、地元のスポーツ選手や地域社会のリーダーによる週1回の講演イベントも開き、健康や運動、栄養面での日課をテーマに扱う。広州を皮切りに、「ナイキ・エクスペリエンシズ(Nike Experiences)」アプリの新機能もテストする。ナイキ・エクスペリエンシズでは、会員登録すれば、今後のイベントについて通知を受け取れる。ナイキ・エクスペリエンシズをほかの都市のアプリユーザーに配信する計画も立てている。
「我々は中国から物事を始めてきた実績がある。中国では、迅速に学べるし、中国人はデジタルとの関わりが深い」とスパークス氏はいう。
ライバルたちとは異なる店舗戦略
ルルレモン(Lululemon)やナイキの最大の卸売パートナーであるフットロッカー(Foot Locker)など、スポーツ用品を扱うほかの多くの小売業者は、店舗を地域のイベントの中心拠点として、またワークアウトクラスを開催する場として利用してきた。ラミレス氏によると、イベントやコンテンツに関するナイキの戦略がライバルと異なるのは、より幅広い技能水準に対応し、ランナーやヨガ愛好家だけに焦点を合わせていない点だ。パンデミック中、「ナイキランクラブ(Nike Run Club)」アプリや「ナイキトレーニングクラブ(Nike Training Club)」アプリの新規ユーザーが増加して、ユーザーが興味を持っている運動の種類に関するより多くのデータを得ることができたため、そうしたスキルに磨きをかけることもできた。
「アスリートや、ワークアウトを始めたばかりの人であれば、消費者がその時に興味を持っているであろう、ほぼすべての会話の最先端にいる」と、ラミレス氏は語る。
スパークス氏によると、広州店のオープンは、1年以上のあいだ準備が進められてきて、新型コロナウイルスのアウトブレイクによる遅れはなかったという。広州店のオープン時には、ナイキは、中国国内にあるほかの店舗でおこなっているのと同じ予防措置(入店時にマスク着用の義務付け、入り口での体温チェック、入店人数の制限)を実施する。広州でナイキの店舗を再開したあと、中国では客足は依然として多い、とスパーク氏はいう。「客足が落ちている場所もあるが、それは入店人数を調整しているからだ」。
「過去数カ月の中国のパフォーマンスを考えると、この店舗で学べることに満足できる」とスパークス氏は語った。
[原文:To keep shoppers coming back, Nike is testing a new experiential store format]
Anna Hensel(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:長田真)