ドイツの複合企業ヘンケル(Henkel)が美容事業のD2C展開に意欲的を燃やしている。北米ヘンケルのステファン・L・ムント氏は「D2C事業の拡大を通じて、今日の消費者に直接リーチし、そのニーズに対応する能力を強化するとともに、組織のデジタル化を加速させたい」と語った。
ドイツの複合企業ヘンケル(Henkel)が美容事業のD2C展開に意欲的を燃やしている。
最近の活動としては、2019年6月にD2Cでヘアカラーを販売するイーサロン(eSalon)の株式の過半数を取得した。2020年7月にはD2Cの美容ブランド、ハローボディ(Hello Body)、バナナビューティ(Banana Beauty)、マーメイドプラスミー(Mermaid+Me)を傘下に収めるインビンシブルブランドホールディング(Invincible Brands Holding)の株式の過半数を獲得している。そして今月、サロン向けヘアケア事業のゾートスプロフェッショナル(Zotos Professional)のなかに新しいデジタルブランド「ウェルフォリア(Wellphoria)」を立ち上げた。取り扱う商品はCBD(カンナビジオール)とヘンプシード(麻の実)を配合した5種類のヘアケア製品で、それぞれ24ドル(約2530円)で販売する。ブランドサイトのWellphoriabeauty.comでオンライン販売するほか、美容製品の卸売業者2社、具体的にはメリットビューティサプライ(Merit Beauty Supply)とニューヨークシティビューティサプライ(New York City Beauty Supply)を通じてサロン従事者にも販売する。
北米ヘンケルのビューティケア部門でヘアプロフェッショナル事業を統括するステファン・L・ムント氏は「D2C事業の拡大を通じて、今日の消費者に直接リーチし、そのニーズに対応する能力を強化するとともに、組織のデジタル化を加速させたい」と語った。
Advertisement
時宜に適う立ち上げ
北米ヘンケルのビューティケア部門で小売事業のマーケティング責任者を務め、ゾートスプロフェッショナルのマーケティングとクリエイティブを担当するバイスプレジデントでもあるエリザベス・ケニー氏によると、ウェルフォリアは3年越しの企画だという。だが店舗やサロンがいまも断続的に休業と再開を繰り返し、消費者にとって健康とウェルネスが絶対的な最優先事項となっている現状を考えれば、いまこのときの立ち上げは時宜に適うとケニー氏は語る。
「トータルウェルネスという概念とも相性が良い。在宅フィットネスのペロトン(Peloton)の利用者や髪の健康に何か良いことがしたい人たちにアピールできるだろう。食品やスキンケアでは広く普及しているコンセプトだが、ヘアケア分野ではまだ新しい」とケニー氏は続けるが、同時に、これらの製品が「多目的」だと証明するには品揃えが限られているとも言っている。また、ゾートスプロフェッショナルでマーケティングイノベーション部門を統括するミア・チェイス氏によると、ウェルフォリアのターゲット顧客は18歳から44歳の男女だが、CBDを売りにしているため、18歳から28歳の年齢層では当初の見込みよりも良い数字を期待できそうだという。
インキュベーション活動により美容業界には新しいブランドが次々と生み出されるが、創業が1876年までさかのぼるヘンケルにとっては比較的新しい領域と言える。同社の北米美容部門がガイ・タン氏のプロデュースするヘアカラーブランド「マイデンティティ(MyDentity)」をサロン従事者向けに発売したのは2017年のことだ。直近ではこの4月にデジタル事業のベターネイチャード(Better Natured)とオーセンティックビューティコンセプト(Authentic Beauty Concept)を立ち上げている。ベターネイチャードの商品は一般消費者とサロン従事者の両方を顧客として同ブランドのウェブサイトで販売している。他方、オーセンティックビューティコンセプトについては、Ulta.comとSalonCentric.comを通じて販売する。
デジタルは最優先課題
今日の美容企業ならどこでも同じだが、ヘンケルにとってもデジタルは店舗とサロンの別を問わず最優先課題となっている。今年の上期、同社の美容部門は新型コロナウイルスによって大きな打撃を受けたため、ウェルフォリア、ベターネイチャード、オーセンティックビューティコンセプトの立ち上げは、ことさらに重要な意味を持つ。実際、同社ビューティケア部門の既存事業売上高は2020年第1四半期の決算で3.9%下落した。価格も1%減速し、販売数量は2.9%落ち込んだ。また、第2四半期の同部門の既存事業売上高は、サロンの休業が響き、12.8%減となった。
前出のチェイス氏によると、消費者がサロンに直接足を運ばない状況下でもウェルフォリアのブランド認知を確立するために、同ブランドのウェブサイトにはビフォアアフターの画像やチュートリアルをよく目立つように配置する予定という。さらに、注文ごとに必ず試供品を同梱する一方、ショッピングプラットフォームの「インフルエンスター(Influenster)」や業界メディアの「ビハインド・ザ・チェア(Behind the Chair)」と連携して、マイクロインフルエンサーやプロのスタイリストに商品サンプルを配布している。ウェルフォリアでは、独自のフィルターとMyVana.WellphoriaBeauty.comという二次サイトを通じてエクスペリエンスのゲーム化も試みている。このサイトで、顧客は写真をアップロードしたり、「髪質改善の悦び」を表現したり、写真やミームをカスタマイズしたりできる。ユーザーが投稿したコンテンツはWellphoriaBeauty.comとソーシャルメディアで活用するという。
「プロと一般消費者を隔てる壁を崩し、サロン品質の製品を家庭でも使えるようにしたい」とケニー氏は語った。
[原文:Inside Henkel’s digital ambitions]
PRIYA RAO(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)