バドライトは、今やメディア業界にとってもっとも急速な成長を遂げているeスポーツにおいてその立場を確固たるものにしている大手広告主のひとつだ。5年間でeスポーツでも最大級の人気を誇るタイトルでスポンサーを務め、現在では配信やゲーム内広告にまで積極的に投資を続けている。そんなバドライトの狙いはどこにあるのだろうか。
物事は最初に、最大の投資をおこなうことが大切だ。そうすることでバドライト(Bud Light)は、いまやメディア業界において、もっとも急速な成長を遂げている分野で、その立場を確固たるものにしている。そう、eスポーツだ。
eスポーツに取り組んでいる大手広告主はバドライトだけではない。だが、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev)が有するビールブランドのひとつである、同ブランドの存在感はとりわけ大きい。バドライトはこれまで5年間、eスポーツでも最大級の人気を誇る「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」や「NBA 2K」といったタイトルで、スポンサーを務めてきた。
そして今、バドライトはeスポーツへの取り組みをさらに強化している。
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配信からゲーム内広告まで
バドライトは9月1日から9月4日にかけて、Twitchチャンネル上で人気配信者たちがさまざまなゲームで競い合う「バトル・オブ・ザ・ベスト(Battle of the Best’)」というイベントを開催した。バドライトでスポーツマーケティングディレクターを務めるジョー・バーンズ氏は「eスポーツには、配信であれ、Twitchチャンネルであれ、ブランドが関与できる多くのチャンスがある」と語る。
実際にバドライトは、eスポーツを通じて「広告主」と「コンテンツクリエイター」のあいだにある境界線を越えようとしている。その基本戦略として同ブランドはゲーム内広告に力を入れており、ローンチ前のゲームにバドライトを登場させる契約を結んでいるという。また、Twitchチャンネルの視聴者を増やす取り組みの一環で、eスポーツ分野のタレントとの契約も模索している。
「バトル・オブ・ザ・ベストでは、人気配信者と短期間かつ大規模な契約を結んだ」と、バーンズ氏は語る。「また、数週間以内にある大手配信者との公式パートナー契約の発表を予定している」。
eスポーツがメインストリームになりつつあるなかで、インフルエンサーやゲーム内広告など、ゲームにおけるバドライトのビジネスチャンスはますます明確になりつつある。市場調査会社グローバルデータ(GlobalData)の予測によれば、2025年にはゲーミング市場は3000億ドル(約32兆円)規模に達する。2019年の映画市場はグローバルで1000億ドル(約10兆600億円)だった。
ゲームを起点としたコンテンツの拡大
ゲーム業界はもはや消費者がゲームを購入するだけにとどまらない。ラッパーのポスト・マローン氏はeスポーツのチームを共同保有しており、NBAスターのレブロン・ジェームズ氏の息子もeスポーツのプロチームに所属している。ゲームがより多くのオーディエンスにリーチできる土壌ができつつあるのだ。
バーンズ氏は、バドライトのeスポーツマーケティングにプロスポーツ選手を起用することも可能と見ている。バドライトとスポンサー契約を結んでいる選手が、テレビ広告ではなくTwitchチャンネルに登場する日も近いという。
「ゲームが好きなスポーツ選手は多く、参加したいというアプローチは絶えない」と、バーンズ氏は語る。「彼らとの関係性を、Twitchやバドライトのチャンネルで活かせるように取り組んでいきたい。ゲームはいまや、文化の中心地になりつつあるのだ」。
バドライトによるコンテンツの配信にも影響が見られる。「これまで当社はYouTubeでは音楽を、Twitchではゲームを主軸に据えていたが、これについても変えつつある」とバーンズ氏は語る。
実際、「コール・オブ・デューティ(Call of Duty)」や「オーバーウォッチ(Overwatch)」といったeスポーツでも人気タイトルが、YouTubeで独占配信をおこなっている。これは1年前から変化した点だ。一方、Facebookもこの数カ月でゲーム配信機能の使い勝手を向上させており、同分野の切り崩しを続けている。 とはいえ、現時点でバーンズ氏がもっとも重視しているのは、3万5000人近いフォロワーがいる同社のTwitchチャンネルだ。
投資に見合う効果はあるか
現在のコロナ禍は、ある意味でバドライトが5年間続けてきたゲーム業界への投資が、本当に意義のあるものだったのかを見極める、この上ない機会となった。
従来のスポーツ分野ほどではないとはいえ、eスポーツ業界への投資も決して安くはない。eスポーツ関連の商取引を仲介している、ある企業の役員によれば、たとえばBMWは、世界で非常に高い人気を誇るeスポーツのプロチームやオーガナイザー5社とのスポンサー契約に約50万ドル(約5300万円)を支払っているという。
この決して安くないコストに加えて、測定の難しさと広告に抵抗のあるオーディエンスも課題だ。好調時においてもこの課題解決は容易ではなく、財務面で厳しい現状下ではさらに難しくなる。だがバーンズ氏のチームは、過去5年間で蓄積してきた、特に測定に関する経験がこの改善に役立ったという。たとえば同社は現在、ニールセン(Nielsen)のeスポーツ部門と、Twitchにおけるブランドリフトおよびブランドエクイティの研究を進めている。
「当社は2020年以前からeスポーツに深く携わってきた。そしてここ数カ月で、配信者たちと協力してeスポーツ業界を重視し、新たな機会を提供するブランドであることを行動で示してきた」とバーンズ氏は語る。
ゲームは広告の一分野
最大手の広告主としてアンハイザー・ブッシュ・インベブが名を連ねていることは、ゲーム業界への関心の高まりを表しているといえるだろう。アディダス(Adidas)もゲーム内にアディダスブランドを登場させようとさまざまな手を尽くしている。
ゲーム内広告を扱うアドテクベンダー、アンズ(Anzu)でCEOを務めるイタマール・ベネディ氏は、「eスポーツは、ネット上における仮想世界と、そこに広がるビジネスチャンスのさきがけとなっている」と述べている。「開発者らは、『フォートナイト(Fortnite)』をはじめとするゲームや音楽コンサートなどさまざまな分野で仮想世界を構築しており、人々を惹きつけている」。
ベネディ氏は次のようにも語っている。「ゲームは、検索やSNS、屋外メディアと同じレベルで広告の一分野として扱われるべきだ」。
[原文:‘Gaming is where culture is being set’ Bud Light gets serious about esports]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)