3月21日にようやく1都3県の緊急事態宣言が解除された。一部では2回目のワクチン接種も始まっており、コロナ禍で変容した消費者の行動がどのように再度変化していくのかに注目が集まる。
消費行動の変容のなかでも最も顕著だったのがECへのシフトだ。しかし、細かくデータを見ていくと、対面販売からECへのシフトが進んだ業種は限られている。本稿ではその実態を探っていこう。
公的な経済統計ではまだ2月の結果が確認できないため、現金を含む消費全体を捉えた消費動向指数「JCB消費NOW」※>を含むオルタナティブデータを用いてコロナ禍における消費行動の変容を確認していく。
※JCB消費NOW:JCBグループ会員のうち、匿名加工された約100万会員のクレジットカード決済情報をもとにJCBとナウキャストが算出した消費動向指数。
明らかにコロナが追い風になったEC業界
JCB消費NOWの消費指数をECについて見てみると、2020年の緊急事態宣言発令時に大きく上昇しており、1年を通じてみても平均20%以上の伸びを維持した。
消費者側には新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、不特定多数の第三者との接触を回避したいという強い需要があった。販売側も一時休業や時短営業などの制約があったため、これまで対面で行われていた消費の一部がECに流れ込んだ。
ECの伸びが一時的なものではなく、1年以上も維持されているというのは、これまで食わず嫌いでECを使ってこなかった人たちがコロナ禍で利用してみたことで、その利便性を十分に認識して利用を継続し、使い始めた頃よりも利用頻度や1回あたりの発注量が増加したと考えられる。
ECの伸び率をコロナ禍前(2018年から2020年までの各2月時点における3年間の平均年間変化率)と、コロナ期間中(2020年2月と2021年2月の変化率)を比較すると、前者が8.0%に対して後者は18.4%となっており、EC業界にとってはコロナが追い風になったと言える。
ECシフトは「アパレル」「家電」で顕著
消費額が一定である場合、ECが伸びれば、一方では対面での販売が落ち込むことになる。
データを業種別に細分化することで、EC化が進んでいる業種を確認していこう。コロナ禍前からの成り行きを見るために、データは2016年1月からグラフ化している。
EC化が目立つ業種は「アパレル」「家電」の2業種であった。
経済産業省が発表した「令和元年度 電子商取引に関する市場調査」によると、衣類・服装雑貨等のEC(BtoC)の市場規模は前年比7.7%増の1.9兆円。
ECにおけるアパレル業界はもともと高成長分野だったが、上記のグラフを見ればコロナ禍でさらに成長速度が増したと言える。2020年時点でアパレルのEC化率は13.8%だったが、この1年で15%近くまで上昇すると考えられる。
コロナ禍において家電が大きく伸びた背景には、在宅勤務の拡大や外出自粛によって「おうち時間」が増えたことで、PC関連商品や炊飯器や電子レンジ、空調など家電の買い替え需要が高まったと考えられる。
一方で、コロナ禍において、対面販売を通じた消費とEC経由の消費のいずれも増加したのが「飲食料品」「医薬品・化粧品」だ。
飲食料品や医薬品・化粧品を買うスーパー、コンビニ、ドラッグストアは住宅街にあり、自宅から1キロ圏内に店舗がある場合が多いことや、飲食店や居酒屋のように時短営業や営業自粛をしていないため、対面での販売も伸びた。
これまで喫茶店や飲食店で飲み食いしていた需要が、自宅での消費に置き換わったことも大きいだろう。
EC経由での売り上げが無視できないレベルに
すでにこの傾向は企業の業績にも表れはじめている。
ファッションECモール「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの2021年3月期第3四半期決算によると、商品取扱高は前年同期比22.2%増の1186億円。ZOZOTOWNへの出店ショップ数も前年同期比6.5%増の1433店となっており、アパレル業界のECシフトの恩恵を大きく受けていることがわかる。
好調なのはZOZOだけではない。ユニクロを運営するファーストリテイリングの2021年8月期第1四半期決算によると、同社のEコマース売上高は前年同期比48.3%増の367億円と大幅に上昇。売上構成比は14.5%まで上昇した。
同じくアパレル大手ユナイテッドアローズの2021年3月期第3四半期決算によると、同社のネット通販売り上げも前年同期比16.2%増と2桁成長しており、同社においてはネットの売上構成比率が前年から10.7ポイント増加して31.6%まで高まっている。
家電業界も同様だ。エディオンの2021年3月期第3四半期の決算によると、10~12月累計の既存店受注売上は前年同期比18.3%増だった。エディオンネットショップが好調であり、ネットショップを考慮した既存店受注売上は同19.7%増とさらに大きく伸びている。
家電大手のヤマダ電機も「ヤマダウェブコム」という自社サイトでの販売を強化しており、さらには楽天市場店や子会社のベスト電器(2021年7月にはヤマダ電機と合併予定)をPayPayモールに出店するなど、他社EC網への拡大も同時に進めている。
自前か協業か? 先行する外食産業からのヒント
仮にワクチン接種の効果により新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、日常が戻ってきたとしても、消費者のECシフトの流れは変わらないだろう。そうなると企業側にもECシフトが求められてくる。
前述のヤマダ電機のように自前のECサイトを設けつつ、他社のECサイトにも出店するケースはあるが、各社にとってリソースを割くべきはやはり自前のECサイトを成功させることだろう。
コロナ禍において変容した消費者の行動にマッチした施策として、EC以外には外食産業のデリバリーが挙げられる。
デリバリーには、自社の配送網を構築する場合とUber Eatsや出前館のような外部のサービスを使うという2つの選択肢があり、先ほどのECサイトの話に通ずるものがある。
実際にデリバリーサービスを行っている外食産業で取材をしていると、やはり他社のデリバリーサービスを使うと配送時のトラブルが多く、自社の配送網のほうがデリバリーの質を担保しやすいという。
これはECサイトにおいても同様で、自前のECサイトのほうが、自社の商品を最も魅力的に訴求するデザインや設計が可能になる。
ECシフトが進んでも実店舗がすべてなくなるわけではないため、アプリを仲介としてECと実店舗の両方で価値の上がる設計にすることなど、アパレル業界や家電業界に求められるデジタルシフトの課題は依然として多い。
(文・森永康平)
森永康平:証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。著書に『MMTが日本を救う』(宝島社新書)や『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。日本証券アナリスト協会検定会員。