「高齢者のECシフト」が消費データに現れた…百貨店・小売ビジネスDXが急務の理由

原宿の写真

人々の行動はコロナによってどう変わったのか(写真はイメージ、2020年4月撮影)。

撮影:竹井俊晴

年初に11都府県に発出された緊急事態宣言が、栃木県を除く10都府県で1カ月延長されることになり、2週間あまりが過ぎた。

緊急事態宣言が経済に与える影響は大きいが、まだ公的な経済統計では1月分の結果が確認できないため、現金を含む消費全体を捉えた消費動向指数「JCB消費NOW」を含むオルタナティブデータを用いて同宣言の影響を確認していく。

※JCB消費NOW:JCBグループ会員のうち、匿名加工された約100万会員のクレジットカード決済情報をもとにJCBとナウキャストが算出した消費動向指数。

コロナの消費行動の激変がデータで見えた

シャッターが目立つ街中

撮影:竹井俊晴

所得の減少で消費が抑制された以外にも、コロナの影響で消費行動に大きな変化が見られている。それが販売チャネルの変化だ。

感染拡大を防止するために外出自粛することはできても、消費をしなくていいとはならない。生活必需品は買わなければ生活ができないからだ。

そこで、不特定多数の第三者との接触を避けるため、販売チャネルが店舗における対面販売からECへ急激に移行した。

2020年1月を「コロナ前」として、その1年後の2021年1月の消費データを年代別に消費指数の伸び率を比較してみたものが下図だ。全年代でECの利用率が上昇していることがわかる。特筆すべき点は高齢者のEC利用も大きく増加していることだ。

年代別消費指数

出所:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」、厚生労働省のデータを基に著者作成。

また、同じく「コロナ前」とその1年後の消費データを品目別に区分けし、ECと対面それぞれの消費指数の伸び率を比較したものが下図だ。

1年前からの変化

出所:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」、厚生労働省のデータを基に著者作成。

機械器具を除く4品目で対面からECに販売チャネルが移行していることが確認できる。

機械器具はECも対面もともにプラスとなっているが、これは在宅勤務が普及したことや、定額給付金による一時所得の増加などから、家電製品への需要が高まったためと考えられる。家電製品については実際に店舗で製品の比較や店員とのコミュニケーションが重視されていることが影響しているのだろう。

意外に感じたのはアパレルも対面からECに販売チャネルが移行していたということだ。洋服こそ店舗で実際に試着をして、店員や友人の意見を聞きながら買うものだと思っていたが、どうやらスマホやPCの画面上でデザインを確認するだけで発注するのが一般的になりつつあるようだ。

既に企業業績にも大きな影響が出ている

販売チャネルがECへ移行している影響は企業の決算からも読み取れる。

ちょうど2月は決算シーズンであるため、EC関連企業の決算をいくつか確認してみよう。楽天市場を運営する楽天は去年1年間のグループ全体の決算で最終的な損益が過去最大となる1141億円の赤字となったことが大きく報道された。

2020年第4四半期の国内EC流通総額は前年同期比38.5%増の1.4兆円と大きく伸びており、2020年度では同19.9%増の4.5兆円と初めて4兆円を超える数字を残した。携帯電話事業における先行投資で全体の赤字額が膨らんでいるが、EC事業だけを取り出せば、まさにコロナ特需の恩恵を受けたことになる。

ヤフーを傘下に持つZホールディングスは、2020年度第3四半期の決算発表のなかで、ECの取扱高は第3四半期の実績値が前年同期比33%増の9182億円となったことを明かした。第4四半期も同10%ほどの成長を見込んでおり、しばらくはEC事業の伸びは続くとされている。

ソフトバンク決算

Zホールディングス(ヤフー)の親会社・ソフトバンクの決算でも、ヤフーのEC事業が好調であると伝えられた。

撮影:小林優多郎

先ほど、洋服をECで買うことについて筆者の感想を述べたが、同社の傘下にあるZOZO事業の2020年第3四半期の商品取扱高は、同26%増と大きく伸びている。

大手企業以外にもEC特需の波は来ている。ECプラットフォームや決済サービスを提供するBASEは2020年12月期の最終利益が5億8400万円となり、同社初の通期の営業黒字決算となった。

BASEのGMV

流通取引総額は注文日ベース(注文額)。

出所:BASEの決算説明会資料。

BASEの決算説明会資料に掲載されているECプラットフォーム事業の流通取引総額(GMV)を四半期ごとに見てみると、2020年の第2四半期(4~6月期)に大きく増加しているが、これは1回目の緊急事態宣言下における消費者の「巣ごもり消費」や「応援消費」の影響が大きい。

百貨店業界が大きな転換点

銀座の様子

百貨店には早急に対応が求められる。(写真はイメージです。2020年9月撮影)。

撮影:小林優多郎

インフルエンザが毎年流行ることを考えれば、新型コロナウイルスとも共存していかなければいけない可能性は高い。企業はコロナ禍における消費者の行動変容に、本格的に対応していかなければならない。

中でも、早急に対応が求められるのは新型コロナウイルスの影響を大きく受けた百貨店業界だ。

主な顧客層が比較的裕福な高齢者だが、新型コロナウイルスによる重篤化リスクが高いのも高齢者ということで、外出自粛による影響がスーパーやコンビニなどよりも大きく出てしまったと考えられる。

また、店舗の多くが主要駅にあるため、混雑を避けたいと考える消費者が来店しなくなってしまったことも影響した可能性がある。

消費指数の推移

注:網掛け部分は第1波~第3波を表現。

出所:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」、厚生労働省のデータを基に著者作成。

しかし、ここで注意しなければならないのは、あくまで意図的に百貨店での消費を抑制しているだけであって、主要顧客の資産が痛んだ結果として消費が弱含んでいるわけではないことだ。

他の小売業態に比べれば、主要顧客層の保有資産額が平均より高いとされている百貨店業界は、依然として優良な顧客を抱えていることに違いはない。前述のように、コロナ禍における行動変容の1つに、高齢者がECを利用し始めていることが挙げられる。今後も実店舗での消費の一部がECへと流れていくと仮定するならば、百貨店業界も早々にデジタルシフトを進める必要がある。

三越伊勢丹グループが月初に発表した1月の月次売上速報では、ECの売上が前年比で約2倍の伸びとなっていることや、エイチ・ツー・オー リテイリング(阪急阪神百貨店などを運営)も同じく1月の月次売上速報のなかでECの売上高が前年比213%と高伸したことを報告しており、既にデジタルシフトが進んでいる印象を受ける。

だが、依然としてECが売り上げ全体に占める割合は低い。三越伊勢丹グループの2020年度第3四半期の累計売上高(4~12月)は6024億円だが、うちECの売上高は246億円と全体の5%にも満たない。

ECが売上高全体に占める割合を高めるべく、EC化が進んでいる他業種での施策の研究や、オンラインとオフラインの間をいかにシームレスにしていくかなどの課題は山積みだ。自社単独でこの課題を解決するのか。はたまた、大手EC企業と組むか、ベンチャー企業との協業になるのか。今後の展開に注目が集まる。

(文・森永康平


森永康平:証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。​著書に『MMTが日本を救う』(宝島社新書)や『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。日本証券アナリスト協会検定会員。

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