加藤 公一 レオ 2021/12/13 8:00

コロナ禍でネット通販(D2C)が伸びている。なかでも注目のカテゴリーが食品だ。居酒屋や焼肉屋などの飲食店を経営する事業者が、新たに参入するケースも多い。

食品通販(D2C)ならではの特性は何なのか、成功する食品D2Cに必要な考えとはどういったものなのか? オイシックス・ラ・大地の専門役員CMT、シンクロの代表取締役社長を務める西井敏恭氏を招き、「食品×D2C」をテーマに筆者の加藤公一レオ(売れるネット広告社 代表取締役社長CEO)と語り合った対談をお届けする。

売れるネット広告社の加藤公一レオ(左)と、オイシックス・ラ・大地、株式会社シンクロの西井敏恭氏(右)
売れるネット広告社 代表取締役社長CEOの加藤公一レオ(左)と、オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員CMTで株式会社シンクロ 代表取締役社長の西井敏恭氏(右)

家で簡単にできる新しい体験が求められている

加藤:この1年半、食品関連企業からの問い合わせがものすごく増え、“食品×D2C”が注目されていることを実感しています。以前の食品通販需要を「100」としたら、西井さんの肌感覚でどのくらい伸びましたか?

西井:200~300ですね。ただOisixの場合は急に需要が伸びても、現実にさばけるのは130くらいです。

加藤:やはり食品の勢いはすごいですね。もともと売れるネット広告社のクライアントは化粧品や健康食品分野が多く、それらのカテゴリーの通販需要もコロナ禍で伸びてはいますが、2~3倍も伸びているという感覚はありません。なぜ食品分野がそんなに盛り上がっているのでしょうか。

西井:外食に使っていたお金が“家の中”に入っているからだと思います。家で扱う食品量が増えていて、実はネット通販に限らずスーパーの食品売上もすごく伸びています。

加藤:なるほど。最近、焼き肉屋や居酒屋などを営んでいる経営者から「店舗ビジネスがボロボロだからD2Cを始めたい」という相談をよく受けます。食品D2Cに参入する際に気をつけるべきポイントはどこにあるのでしょう?

西井:食に使うお金が外から中に移っている現状を踏まえ、いかにSNSやメールなどを通じてそのお客さまとコミュニケーションできるようにするかが重要だと思います。焼き肉屋さんなら、「今まで店でできていた体験が家でもできる」というのはすごく需要があるはずです。

近年、日本全体で家で作る食事の量は減っていたんですが、コロナ禍で自炊しないといけない状況になりました。昼も夜も家でご飯を作らないといけなくなり、嫌気が差している人が増えています。だからこそ、「簡単にできる」こともすごく重要です。たとえば「週に1回家で居酒屋ができる」など、家で簡単にできる新しい体験が求められています。

「週に1回の居酒屋デー」のような感じで外食代わりに楽しんでもらうためには、店に来ていたお客さまとつながることが大事です。店に来てくれていたお客さまとLINEやメールでつながって、「ご自宅でも定期的にどうぞ」とアプローチしていけば需要はあるはずでしょう。

加藤:しかも、D2Cをやればお客さまの個人情報が入ってくるので、コロナ禍が収束したらその顧客データベースを使って来店促進ができるというメリットもありますよね。

西井:そうなんです。新型コロナウイルスが出てきた頃は誰もこんなに長引くとは思いませんでしたが、Oisixではお客さまの動向を敏感に察知して、早めに配送センターの拡充などを決めたのでコロナ禍を追い風にして成長することができました。お客さまとのつながりから得られる情報をもとに、クイックに意思決定をして動くこととても大事です。

スーパーとは違う通販ならではの価値をどう提供できるか

加藤:食品のD2Cに夢や希望、目標を持っている方は少なくありませんが、ぶっちゃけ売れる商品と売れない商品があります。特にサブスクで売れる商品というのはどんな商品なのでしょうか。

西井:Oisixではさまざまな食材を組み合わせて「ミールキット」という形にしたり、日数分の食材をセットにしてレシピを同梱したりすることで、「自分でレシピを考えなくていい」という価値を提供しています。普通のスーパーで買えるものは「別に通販で買わなくてもいいや」となってしまいますが、スーパーには売っていない「体験」を提供できるサービスは通販で成立すると思います。

ミールキット
オイシックスのミールキット「kit Oisix

加藤:確かに。私は昔から通販は「教育業」だと思っています。正直、健康食品や化粧品自体はどこでも買えますよね。そんななかで通販ができることは、商品だけでなく付加価値としての情報を提供することです。

健康食品の会社なら、毎月定期商品に情報誌を同梱して健康の大切さを語ったり、季節の健康レシピやスキマ時間にできるエクササイズを紹介したりするんです。化粧品の会社なら、美容に良い食材を紹介したり、若々しく見えるメイクアップ法を教えたりと、色々なアプローチがあります。

西井:Oisixの事業もそれに通じるものがあります。私はSNSで「バズる」ことはあまり重視していなくて、ユーザーが「何を言っているか」を見ています。私たちの狙いとは別の価値をユーザーが感じてくれていると、それがヒントになって次の価値を創ることができるからです。

たとえば、ワインの定期通販は昔からあるかもしれませんが、「このワインの定期便を利用するとめちゃくちゃワインの勉強ができる」というのなら、レオさんがおっしゃる付加価値になりますよね。

加藤:実際、クライアントに「せっかくワインのサブスクをやるなら、お客さまがソムリエ検定を取れるくらいの情報提供をした方が良いですよ」と提案したことがあります。その発想ですよね。

西井:まさにそうです。そういうことをお客さんと一緒にやっていかないと、なかなか安くて早い普通のスーパーには勝てません。ほかに売れる商品をあげるなら、最近はベースフードがすごく伸びています。パン1個に必要な栄養素が入っているって面白いですよね。「栄養バランスを心がける」といっても具体的にどうすればいいかわからない人が多いので、何も考えずにそれだけを食べても栄養が摂れる商品というのは強いです。

「楽に簡単に」へのニーズは今後も継続

加藤:これまでの流れを見ていると、特に若年層の間でミールキットのような簡単に調理できる食品の需要が今後も伸びていくと感じますが、どうでしょうか。

西井:その通りだと思います。コロナ禍が収束したとしても、以前に比べると外食は少し減ってしまうと予想しています。でも家でご飯を作って食べるってすごく大変なので「楽に簡単に」というニーズはこれからも増えると思います。そのなかで、「家で居酒屋や焼き肉屋さんができる」といった新しい体験の提供にもチャンスがあると考えています。

加藤:実際に、東京である程度知名度のある焼肉屋さんから「焼肉をサブスクで売りたい」という相談を受けて売ってみたら、思った以上に売れたという経験がありました。

西井:そう、意外に売れるんですよね。さらに季節によって肉が変わるといった趣向があれば、普段焼肉屋さんでもなかなか体験できない肉の良さがわかるかもしれません。それが通販の良さですよね。スーパーで何も考えずに商品を手に取るのとは違う体験をどう作るかが大事ですし、そこに売れる商品を生み出すチャンスがあると感じます

売れるネット広告社の加藤公一レオ(左)と、オイシックス・ラ・大地、株式会社シンクロの西井敏恭氏(右)

加藤:食品といってもいろいろな商材がありますが、「食品でこの値段を超えたらキツイ」という上限はありますか?

西井:ありますね。ただそれは人によって違うので、ターゲットを絞ることが大事です。もともと外食がすごく多い人は食にたくさんお金を使っているので、以前の外食費より少し安ければスイッチコストとして許容できます。化粧品は5000円を超えると売りにくくなりますが、食品はそういったことがあまりありません。化粧品に比べると食品は価格に幅を持たせやすいと感じます。

価格設定をする際に重要なのは、お客さまが普段買っている食品の値段から大きく外れないことです。たとえば、牛乳のようにほとんどの人が一般的な値段を思い浮かべられるような商品はスーパーと同じような価格でないとなかなか売れません。しかし、加工食品などはレシピを作る方の人気などによって価格が変わるのはレストランと同じでしょう。そうやってトータルで見ると、化粧品に比べて許容される金額は比較的大きいと感じます。

スキップ・休止しやすい仕組みを作ることがLTV最大化につながる

加藤:体験を提供するという話がありましたが、それ以外に食品通販でLTVを上げるにはどんな方法がありますか?

西井:通販のLTVは1年や2年のスパンで見ることが多いですが、食品は1人のお客さまとの付き合いが長くなりやすいです。その代わり、途中で休める状態をいかに創るかが大事です。化粧品の場合、一旦休眠したお客さまはなかなか戻ってきません。しかし、食品の場合、過去に使っていてまた戻ってくるお客さまがすごく多いんです。だから、一度やめた後もまた戻って来やすい状態を作っていると、本当の意味でのライフタイムバリューがめちゃくちゃ伸びます

食品通販は生活の変わり目で始めたりやめたりする人が多いので、解約になっても定期的にコミュニケーションを取ることでまた戻ってきてくれるお客さまは少なくありません。なるべく解約ではなく休止にもっていった方が良いです。

また、必要以上に届けず、あえてスキップしやすい仕組みにすることも大切です。食品は放っておくと腐ってしまうので、お客さまにとって届くと困るタイミングで届けてしまうと化粧品以上に解約につながります。だからOisixでは定期ボックスの商品を変更していないお客さまに、「この内容でお届けしていいですか?」と事前に確認のSMSやLINEを送って、不要ならキャンセルできるようにしています

独自ドメインでいかにLTVとCPOを合わせるか

加藤:D2Cを始めるときはまずモールから入る人も多いと思いますが、モール出店についてはどう思いますか?

西井:私はモール否定派です。モールに出店すると尋常じゃない量のトラフィックがあるので、ニーズのある商品なら価格を少し下げれば売れます。ただ、私がこれまで重視してきたのは「いかにLTVとCPOを合わせるか」です。モールでLTVをコントロールするのは大変なので、独自ドメインでお客さまと直接つながってずっと使い続けてもらうことに取り組んできました。もう20年近くECをやっていますが、率直に言ってモールで大きくなった会社はあまり見たことがありません。

モールに出店すると一過性の売り上げは計上できますが、その後も継続する関係を構築するのはなかなか難しい。だから私は独自ドメインでやった方がいいと思っています。

加藤:1つ面白いケーススタディがあります。「楽天市場」でとある食品を1か月分、1500円で売っていた会社がありました。私は「安すぎる」と言って、中身を少し変えてプレミアム感を出すかわりに、容量を半分にして、値段を倍にすることを提案したんです。利益率は約4倍です。

Amazonや「楽天市場」では、常に同じ画面で他社の商品と比較検討されているので、「安くしないといけない」「ポイントをたくさん付けないといけない」という強迫観念に駆られ、値段を下げることばかり考えてしまいます。私はこれを「モール脳」と呼んでいます。でも、独自ドメインのランディングページは、お客さまがそのランディングページを見ている瞬間は独占の世界なんです。

それでその商品がどうなったかというと、自社ドメインのランディングページを作ったらめちゃくちゃ売れました。引上率も20%以上あり、CPOは4000円~5000円です。

西井:モールの価格競争に押されてしまって安売りしすぎると、自分たちも利益が出ない。農家さんにも還元されないので、誰もあまり幸せになっていない気がします。Oisixは農家さんともWin-Winの関係を作ることを大事にしているので、安売りしすぎず適正な利益を出して農家さんに還元するのは大切なことです。

売れるネット広告社の加藤公一レオ(左)と、オイシックス・ラ・大地、株式会社シンクロの西井敏恭氏(右)

広告を打つなら定期モデルが大前提

加藤:Oisixではネット広告も出しているんですか?

西井:はい。広告での集客には力を入れています。実は、化粧品と食品を比べると、化粧品の方がダントツで広告が難しいです。化粧品の広告で「○○が治る」とは言えませんが、食品なら「おいしい」と言えますし、表現の幅が広いです。本来、食品は化粧品に比べると低いCPAで新規顧客を獲得できるジャンルなんです。

加藤:確かに売れるネット広告社のクライアントでもCPA800円で獲得できている食品会社もあります。

西井:そうですよね。「おいしい」と謳えるし、お客さんの体験談も載せられますし、低いCPAで獲得できるのは食品の強みです。

加藤:食品通販は現時点では競合も少ないですしね。

西井:はい。食品は商品の価値をちゃんと伝えれば化粧品より買ってもらいやすいと感じます。ただ、単発で売るために広告を出しても採算が合わないので、自社ドメインでランディングページを作るなら、定期にするなど継続的に売れる仕組みを作ることが欠かせません

加藤:おっしゃる通り、広告をやるなら定期モデルが大前提です。さまざまな規制で化粧品や健康食品のブラックな広告がオワコンになっている今、食品の広告はチャンスですよね。

西井:はい。化粧品や健康食品で儲けていた人たちが今売るものがなくて困っている状態なので、食品D2Cには大きな可能性があると感じています。

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